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今回の一押しは「世界のトヨタ」だあ!

2006年02月20日

 季節は二月、如月となりました。「きさらぎ」とは「着て更に着る」ということで、寒さ極まる月という意味だそうですね。まだまだ寒い日が続きますが、それでも庭先や街路の木を見ると新芽が次々に顔をのぞかせており、春の訪れを予感させます。いいぞー、もうすぐ春だ!いよいよゴルフシーズン到来だ、というわけで心は浮き足立ってくるのですが、私の場合、その前にデスクに積まれた書類の山を何とかしなければなりません。そうです、いよいよ確定申告が始まってしまったのであります。宮下さん、早く書類持ってきて〜。

 そんなわけでこのコーナーも、今回は平静を装いつつ実は夜中にヒイヒイ泣きながら書いているのです。ほんとですから。ここのところ座り疲れで腰が痛くて、寝ても覚めても背中の違和感が取れません。きっと運動不足が原因だろうなーと心はまたまたゴルフ場方面に行ってしまうのですが、それとは何の脈絡もなく皆さんに問題を出します。
 「浚渫」。この字読めますか?カンチョー?違います。どーだ、読めないでしょ。あー、すっきりした。そうじゃなくて、日本語って本当に難しいですよね。もう何十年も操っているのに、未だによく分からないことが多い。私はこの言葉、自慢するわけではありませんが読めました。どこで見たかというと、先月、皇居を一周したときに千鳥ケ渕のお堀の中にあった大きな看板に書いてあったのです。大きなヒントです。正解者は次のステップへどうぞ。

 しかし残念ながら、正確な意味は知りませんでした。以前にも東京湾の埋め立て地で見たことがあります。あ、黒木さん、正解です。次のステップへどうぞ。どうも水に関係があるらしい。そりゃそうですね、両方の字にサンズイがついている。あ、武田さんも正解です。おめでとうございます。
 それでは時間が来ました。残った皆さんに正解をお教えしましょう。答えは「しゅんせつ」です。手許にある電子辞書を引いたら「水底の土砂をさらうこと」とありました。なるほど、そういうことか。千鳥ケ渕の看板は「浚渫工事中」だったから、要するに「ドブさらいやってます」という意味だったんですね。でも浚渫なんて私たちの日常では絶対使わない言葉じゃありません?
 
 絶対使わないといえば、以前から気になっていた単語に「批准」というのがあります。よく新聞の一面見出しにこの言葉が踊っていて、文脈から条約の締結と関係があるらしいということは想像がつくのですが、具体的に誰が行なうどういう行為をさして「批准」というのかさっぱり分からない。電子辞書でついでに調べてみたら、条約を国家として認め最終的に確定すること、だそうです。なるほど、国家が主語に来る場合にだけ使われる言葉が日本にはあるわけですね。だから「どお、今度の週末に批准しちゃう?」なんて使い方は絶対にないわけで、平民の私なんぞは一生使いません。それでもそういう言葉が存在する。そこが日本語の奥深いところでしょうか。

 しかし、私も物書きの端くれとして声を大にして言いたいのですが、同じ難しいのでも、「難解」と「いい加減」とは明らかに違います。それを強く感じたのはカー雑誌ですね。ここのところすっかり遠ざかってしまいましたが、私も男子の一人としていわゆるクルマに興味を持ち、若い頃にはクルマ関係の雑誌をときどき眺めておりました。でもまさしく写真を眺めていただけで、そこに書いてある文章をまじめに読んだことはあまりありません。だってすごく難しいんですもの。それも、最近はどうか知りませんが、とにかく「いい加減」な意味で難しくて。
 たとえばよくある新車の試乗記事に、筆者のコメントとして「スパルタンな走り」という言葉が繰り返し出てきます。「この一台、スパルタンな走りを十分に満喫できるものであった…」なーんて書き方がされているのですが、どこを調べてもその言葉の定義が書いてない。「スパルタンな走りってどんな走りやっちゅうねん!」と永井先生のせいで突然関西弁になってしまいました(楽屋ネタです。すんません)が、とにかく気持ち悪くて腹が立って、イライラします。しかもライターによって、その言葉を明らかに違う意味で使っていたりする。クルマ好きの友達に「スパルタンな走りってどういうこと?」と聞いたら「スパルタンっつうのは、どういうかな、こう、とにかくカッコイイっつうことだよ」とかなんとか、要するに分かっていない。
 こういうのはいけません。言いたいことはどうやら「質実剛健な感じ」ということらしいですが、言葉の意味が定まっておらず、全く独りよがりの自己陶酔型の文章になっている。読み手はついていけませんよね。 
 もう一つついでに気持ち悪いのが「エンスー」という言葉。「エンスーな人々」などという見出しが目次に出ていたりするのですが、クルマ雑誌を読まない人には何のことだか全く見当がつかないでしょうね。「enthusiast(エンジュージアスト)=熱中している人」の頭の部分を取ったもののようですが、なんだか「すかしっ屁」みたいじゃないですか。

 あれれ?気がついたら、このコーナーにしては珍しくクルマの話になってしまいました。

 私、正直なところ、クルマという乗り物にそれほど強い関心を持っているわけではありません。もちろん運転免許は持っていますし、自動車も何台か所有しているので、ゴルフとなれば早朝から高速道路をすっ飛ばしていくのですが、たとえば新宿に電車で行くか車で行くかと問われれば、迷わず「電車で!」と答えます。時間と天気が許すなら、「歩いて!」と言いたいところです。
 というのも昔から自動車の運転にはちょっとした恐怖心がありまして、それは「約束の時間に遅れたらどうしよう」「駐車場がなかったらどうしよう」「ぶつけたらどうしよう」「人を殺したらどうしよう」とどんどんエスカレートするので、必要がないなら極力乗らない、というのが基本的なスタンスです。ですから車を「クルマ」とカタカナで表すような趣味はあまりありません。

 とはいうもののやっぱりクルマも機械、矛盾するようですが、どの車を買うかという話になれば多少血が騒ぎます。過去には3シリーズとかCクラスと呼ばれるような、小さいながらも外国のクルマにも一通り乗ってみました。そしてその経験から得た私の結論は「やっぱり世界のトヨタだな〜」です。
 確かに外国車には独特の雰囲気がある。BMWのドドドドドと腹に響く重厚なエンジン音、たまりません。メルセデスもアイドリングの時にシュワシュワシュワーというまるで生き物の呼吸のような音が聞こえて、これもこたえられないものがあります。欲しくなります。あ、やっぱり欲しくなってきた。やっぱ外車はいいやね〜。いや、そうではありません。
 
 いつだったかテレビ番組でテリー伊藤さんが「砂漠の一本道をベンツとアルファロメオのどちらかで行け、と言われたら迷わずベンツを選ぶでしょ」というようなお話をされていましたが、全くそのとおり、クルマにとって最も大切なのは信頼性ですよね。
 私の数少ない経験では、輸入車はとにかく故障が多かった。いくらエンジン音がドドドドドでも、物入れの蓋が曲がって動かなくなったり、急に電気がストップしてウンともスンともいわなくなったりしたら、ちょっと醒めます。それに加えて、その修理を依頼するディーラーがねぇ…。ちょっとねぇ…。顔は日本人なのに、態度はフランス人かイタリア人みたいな人が多くてねぇ…。いや、あくまで私の少ない経験での話ですけど。

 というわけで、フツーのサラリーマンの姿形をした営業マンがやってくるトヨタの車がやっぱりいいのであります、私としては。「いくら値引きしてくれるの?」なんて聞いても、ニコニコ笑顔で「精一杯がんばります」と言葉が通じるし。「点検は引き取り納車してくれる?」なんて聞いても、白い目で見たりしないし。

 ところが。
 先日、ちょっとした事件がありました。私の所有するトヨタ車を点検に出したときのことです。小さな不具合が見つかったので、日帰りのはずがお泊まりの修理となり、その仕上がり予定日がたまたま私担当の優秀な営業マン氏の休日と重なってしまったところから不幸は始まりました。
 ただ引き取るだけのことですから、私は「いいですよ、取りに行きますので」と恐縮する営業マン氏に答えたのですが、肝心の仕上がり予定時刻になっても全然連絡が来ない。携帯に電話くれるように工場に頼んでおいたのに。仕方がないので電話したら、私がどこの誰だか全く分からない。しばらくして折り返しの電話があり、「いや、失礼しました。只今おクルマを洗っていますので、もう間もなく仕上がります。いつでもどうぞ」との解答。そこで営業所に行き、笑顔のサービスマンからクルマを返してもらって家路につきました。
 ところが、なんか変。洗ったばかりのはずのクルマに水滴が一滴も付いていないなんてことがあるのかしら。疑問に思った私は、駐車場に車を止めて、フロントガラスに触ってみたら…。なんと砂埃がたっぷりと付いているじゃあアーリマセンカ。
 そば屋の出前じゃあるまいし。苦し紛れとは言え、見え透いたウソをつくことはないでしょ。カチンときた私は、せっかく休みの営業マン氏には申し訳ないとは思いつつも、携帯に電話して「休みの日に悪いけどさー、実は今日こんなことがあったよ。カクカクシカジカ」と事の顛末を伝えました。だって、世界のトヨタがそば屋の出前じゃ、あまりに悲しいじゃないですか。
 当然営業マン氏は平謝りです。いや、あなたは何も悪くないので謝る必要はないの。でもこういう会社の体質を何とかしないとトヨタブランドが泣くよ、だから会社に伝えてね、と依頼して、とりあえず溜飲を下げました。まあ、ここまではよくある話です。

 ところが。
 その後驚くべきことが起きました。それから1時間もしないうちに、我が家の玄関の呼び鈴がピンポーンと鳴ったのです。夜の8時頃ではなかったかと思います。こんな時間になんだろ、クロネコヤマトのおじちゃんかなぁと出てみたら、なんと驚き。そこにはネクタイを締めたおじさんが4人も立っているのです。支店長、工場長、営業課長…と長のつく人が勢揃い。まるで白浪四人男みたいです。
 みんな神妙な顔をしています。一番年輩の支店長さんは目に涙さえ浮かべています。そして開口一番「須田様、誠に申し訳ありませんでした。大切なお客様に何という不愉快な思いをさせてしまったのか。お詫びの言葉もございません」と地面に着くくらい頭を下げています。
 いやー、驚きました。いろいろな思いが交錯します。まず最初に「パジャマじゃなくてよかったー」。次に「「長」がつく人は大変だなあ」。さらに「どこの会社も上意下達が徹底しなくて苦労してるんだなあ」。こんな感じだったでしょうか。でもお話を伺っているうちに、やはりトヨタという会社はすごい会社なんだな、という思いがこみ上げてきました。
 確かに上意下達は徹底していないけど、トラブルが起きたらすぐに対応して、事実関係を確認して、トップが迅速に動いてと、やるべきことを見事にやっています。やっぱり一流の車を作る会社は、人的ソフトウェアも一本筋が通っていると思いました。というわけで今月の一押しは、ちょっと不愉快な出来事がきっかけでしたが、それを上回る組織力を見せてくれた「世界のトヨタ」でした。

 そういえば先日、日経ビジネスの編集長さんのセミナーを聞く機会がありましたが、その中で「世界のホンダ」でさえ売れなくなることへの恐怖に怯えている、という話が出ていました。ホンダの車に乗っている人が他社の車に乗り換えると、再びホンダ車に戻ってくれるリピート率は何と限りなくゼロに近いんだそうです。
 そんな馬鹿な、と思いましたが、考えてみたら私もかつてシティというクルマに一度乗ったきりで、まさしく同じ状況のユーザーであることを思い出しました。なるほどねぇ、商売って本当に大変なんだなぁ。でも三鷹駅の近くにあるラーメン屋さんはそんな心配いりませんよ。だって私は少なくとも2日に1回は行ってるし、その度によく見る顔の客が黙々と食べてますから…
 
 


  

 


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