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今回の一押しは「徒然草」だあ!

2006年06月28日

 「徒然草」。お分りかと思いますが、「とぜんそう」ではありません、「つれづれぐさ」です。かの有名な吉田兼好法師が西暦1330年頃に著したといわれる随筆です。

 恐らく多くの方が「つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて」という冒頭の一節は知っているけれども、その先は覚えていない、あるいは読んだことがない、というのが実際のところではないでしょうか。かくいう私も、このコーナーの紹介文にその一節をもじって使わせて頂いていますが、実はそれほど詳しいわけではありませんでした。

 でもね。読んでみるとすごーーーく面白いんです。もう700年近く昔の人が書いた文章なのでスラスラというわけにはいきませんが、最近は現代語訳も出ているし、訳がなくても斜め読みで適当に読み進めるだけでそれなりに理解できます。そこに書かれていることは、とにかく驚くほどの慧眼で、人間の知恵というのは700年位じゃほとんど変わらないんだな、ということがよーく分かります。
 たとえばこんな一節はいかがですか。とーしろですが、自分勝手な拡大解釈の訳文もつけちゃいました。

 第十八段
 人は、おのれをつづましやかにし、奢りを退けて、財を持たず、世をむさぼらざらんぞ、いみじかるべき。昔より、賢き人の富めるはまれなり。
 (解釈) 
 人は、日頃からつつましい生活を心掛けるのがかっこいいんです。拝金主義に溺れ、銭ゲバと化して贅沢をするなんぞ、もってのほか。Mファンドの大将みたいに「金儲けは悪いことですか?」なんて開き直っちゃいけません。昔から、賢い人でリッチな生活をしている人なんて滅多にいないのよ。
 
 第二十二段
 何事も、古き世のみぞしたはしき。今様は、無下にいやしくこそなりゆくめれ。かの木の道の匠の造れる、うつくしきうつは物も、古代の姿こそをかしと見ゆれ。
 文の詞などぞ、昔の反古どもはいみじき。ただいふ言葉も、口をしうこそなりもてゆくなれ。「いにしへは、『車もたげよ』『火かかげよ』とこそ言ひしを、今様の人は、『もてあげよ』『かきあげよ』といふ。『主殿寮人数たて』と言ふべきを、『たちあかししろくせよ』といひ、最勝講の御聴聞所なるをば、『御講の廬』とこそいふを、『講廬』といふ。口をし」とぞ、古き人は仰せられし。
 (解釈)
 昔はよかったよな。今は何を見ても無様で、木の器だって古風なものの方がいいよね。手紙の文章も、昔の人のは美しい。話し言葉に至っては、今の若いやつは何でもかんでも省略しやがって本当に腹が立つ。『見られる』を『見れる』という「ら」抜き言葉なんて完全に定着しちゃったけど、とにかく言葉の乱れはひどいよね。『御講の廬』だって平気で『講廬』と略しちゃうし。『スターバックス』は『スタバ』、『高田馬場』は『ばば』、『インターネット』は『ネット』だろ。ばばのすたばをねっとで探して、なんて、お前なに呪文唱えてるの?って感じだよな。

 第四十九段
 老来たりて、始めて道を行ぜんと待つことなかれ。古き墳、多くはこれ少年の人なり。はからざるに病を受けて、たちまちにこの世を去らんとする時にこそ、はじめて過ぎぬるかたの誤れる事は知らるなれ。誤りといふは、他の事にあらず、速やかにすべき事をゆるくし、ゆるくすべき事をいそぎて、過ぎにし事のくやしきなり。その時悔ゆとも、かひあらんや。
 (解釈)
 年を取って暇になったらジャズギターを習おうなんて、将来をあてにしてはダメよ。お墓を見ると結構若くて亡くなった人が多いし。健康診断にも行かないで、やばい病気にかかってあっという間に死にそうになっちゃってから「しまった!」と思ってももう遅いの。後悔先に立たず、ってやつだね。
 早くやらなきゃいけないことをチンタラやったり、ゆっくり味わうべきことを慌ててやって、後から後悔しても始まらないのね。ワールドカップもいいけど、夜中にテレビ見てても何の役にも立たないよ。それより一日も早く税理士試験に合格しなさい、○○くん。

 第五十二段
 仁和寺にある法師、年よるまで石清水を拝まざりければ、心うく覚えて、ある時思ひ立ちて、ただひとり、徒歩よりまうでけり。極楽寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり。さて、かたへの人にあひて、「年ごろ思ひつること、はたし侍りぬ。聞きしにも過ぎて、尊くこそおはしけれ。そも、参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん、ゆかしかりしかど、神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」とぞ言ひける。
 すこしの事にも、先達はあらまほしきことなり。
 (解釈)
 仁和寺の坊さんが、それまで伊香保カントリークラブに一度も行ったことがなかったので、ある時思い立って一人で歩いていってみたんだって。ところが間違えて、その手前にあるショートコースに行っちゃったわけね。友達に「ついに行って来たよ。さすがにいいコースだったね。なんだかみんな、その先の方へ行くんだけど、私はこれで十分と満足して帰ってきました」とお話ししてました。
 こういう勘違いがあるから、道案内程度のちょっとしたことでも誰かのアドバイスを受けた方がいいよね。ましてゴルフをやるんだったら、自己流で苦しむ前にちゃんとした先生に教わった方がいいよ、○○くん。

 第七十九段
 何事も入りたたぬさましたるぞよき。よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顔にやは言ふ。かた田舎よりさし出でたる人こそ、よろづの道に心得たるよしのさしいらへはすれ。されば、世に恥づかしきかたもあれど、みづからもいみじと思へる気色、かたくななり。
 よくわきまへたる道には、必ず口重く、問はぬ限りは言はぬこそいみじけれ。
 (解釈)
 何でも、あまりよく知らないような顔をしている方がいいよ。田舎者の税理士は「俺は税金のことなら何でも知ってるんだ」みたいな調子でぺらぺらしゃべるのよ。まあ確かにすごい点もあるだろうけれど、その訳知り顔が不愉快だよね。
 本当のプロは必ず発言が慎重ですよ。聞かれもしないことを自分から説明するんじゃないの。黙っている方がカッコいいのよ。

 第九十二段
 ある人、弓射ることを習ふに、もろ矢をたばさみて的に向ふ。師のいはく、「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢を頼みて、はじめの矢に等閑の心あり。毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ」といふ。わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろにせんと思はんや。懈怠の心、みづから知らずといへども、師これを知る。このいましめ、万事にわたるべし。
 (解釈)
 ある人、ゴルフを習うのにボールを二個持ってきた。プロが言うのは「初心者はボールを二個持っちゃダメ。次のボールがあると思って、最初の球をいい加減に打つでしょ。いつも、この一球しかないと思いなさい」。たった二つのボールを、プロの前でいい加減に打とうなんて思っていないのに、プロにはそういうことが分かっちゃうんだな。すごいよね。でもこれはゴルフだけじゃなく、すべてのことに通じるのよ。

 第九十八段
 尊きひじりのいひ置きける事を書き付けて、一言芳談とかや名づけたる草子を見侍りしに、心にあひて覚えし事ども。
一 しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、おほやうは、せぬはよきなり。
一 後世を思はん者は、糂?瓶一つも持つまじきことなり。持経・本尊に至るまで、よき物を持つ、よしなき事なり。
 (解釈)
 偉い先生の一言語録を読ませてもらったので、覚えていることを書きとめておこう。
一 買おうか、止めようかと迷ったギターは、だいたい買わない方がいいよ。
一 来世を思うなら、余計な物は持たない方がいい。クラシックからフルアコに至るまで、高価なギターを持ってても仕方ないじゃん。

 第百九段
 高名の木のぼりといひしをのこ、人をおきてて、高き木にのぼせて梢を切らせしに、いと危く見えしほどは言ふ事もなくて、降るる時に、軒長ばかりになりて、「あやまちすな。心して降りよ」と言葉をかけ侍りしを、「かばかりになりては、飛び降るるとも降りなん。如何にかくいふぞ」と申し侍りしかば、「その事に候。目くるめき、枝あやふきほどは、おのれが恐れ侍れば申さず。あやまちは、安き所になりて、必ず仕る事に候」といふ。
 あやしき下臈なれども、聖人のいましめにかなへり。鞠も、かたき所を蹴出してのち、やすく思へば必ず落つと侍るやらん。
 (解釈)
 有名な木登りと呼ばれた男が、部下に木に登らせたとき、高くて危ないところにいるうちは何も言わないのに、軒先くらいの高さになったら「気をつけろ」と言ったんだって。「こんな安全なところで何故そんなことを」と部下が聞いたら、「危ないところでは自分が気をつけるから心配ない。失敗は必ず安全なところで起こすものよ」と仰ったそうな。
 身分は低いが、聖人の戒めに匹敵する素晴らしい教えだね。決算書類の作成も、小さい会社だからとなめてかかると必ずミスをするものよ。30センチのパターが入らなくて100が切れない人もいるしね。簡単なことほど慎重に。これ鉄則だよ。

 第百三十一段
 貧しき者は財をもて礼とし、老いたる者は力をもて礼とす。おのが分を知りて、及ばざる時は、速やかに止むを智といふべし。許さざらんは、人の誤りなり。分を知らずして、しひて励むは、おのれが誤りなり。
 貧しくて分を知らざれば盗み、力おとろへて分を知らざれば病を受く。 
 (解釈)
 貧乏な人ほどお金を渡すのが礼儀だと考え、年寄りほど力仕事で礼を尽くそうとする。しかし自分の能力の限界を知って、出来ないことはやめるのが賢明というものよ。それを許さないのは相手の間違い、無理をしちゃうのは自分の間違いというもの。
 若者に負けないように250ヤードも飛ばそうとするからOBになっちゃうし、キャバクラなんかで格好つけるから一晩でウン十万円も無くしちゃうわけね。何事も「分相応」が大切だな。

 いかがですか。私が自慢しても仕方ありませんが、本当に素晴らしいでしょ?冒頭に「人間の知恵というのは700年位じゃほとんど変わらない」なんて不遜なことを書きましたが、こうして読んでみると、700年の間に日本人のモラルはむしろ確実に低下し、知能程度は下がる一方という感じすらしますね。
 ハァーテレビもねぇ、ラジオもねぇ、の時代に、ベストセラーになることを予定したわけでもなく、これだけ素晴らしい智恵の宝庫の文章を淡々と書き連ねた吉田兼好という人は一体どんな方だったのでしょうか。そしてその吉田兼好の思想を支えたのは、当時の恐らく誰もが持っていた謙譲の美徳、惻隠の情、分相応といった我が日本人独特の感覚に違いありません。
 その美しいモラルが音を立てて崩れ去ってしまった今日、毎日繰り返される気違いじみた事件を見るにつけ、多くの方が「何とかしなければ」と感じていらっしゃるはずです。日本人特有の感覚で満たされた徒然草をみんなで読みましょう。そうすれば日本はきっと良くなる。というわけで今月の一押しは「徒然草」でした。

 それにしても徒然草に書いてあることって恐いくらい当たってるのね。最近、ちょっとまじめにゴルフの練習をしたら肘が痛くなっちゃって、ついに我慢できずに何年かぶりに医者にいったら「こりゃー、典型的なテニス肘だなぁ」だって。
 それって「力おとろへて分を知らざれば病を受く」っていうやつ?ショック………

 

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