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今回の一押しは「病気自慢」だあ!

2006年11月29日

 紅葉も終わりに近づき、窓の外の景色は初冬の装いを見せ始めました。今年もあと少しで終わってしまいますねえ…。毎日をゴチャゴチャと過ごしているうちに、もう年の瀬です。私、ここのところ「ずいぶん増えたな〜」と思うものが二つほどありまして、その一は税務調査、その二は喪中はがきです。
 税務署も「接触率向上」などと称して企業への調査回数を増やしているようで、調査立会が相次いで今月はスケジュールがかなり狂ってしまいましたが、それ以上に最近は喪中のご挨拶が毎日のようにポストに入っていて、何だか気が滅入ります。

 いよいよ親を送る年代になってきたのかなぁと、変なところで年齢を実感してしまいますが、年齢と言えば先日、何気なくつけたテレビの歌番組にアルフィーの皆さんが登場して、なかなか面白いお話をされていました。
 というのも、アルフィーといえば、J-popの世界でロングランの活躍をされている人気バンドですが、澄まし顔のメンバーに司会者が「アルフィーのみなさんも50オヤジでしょう」というような突っ込みを入れて、出演者が一同爆笑していたのです。

 早速彼らのホームページを調べたところ、さすが男性バンド、メンバーの生年月日が明記されていて、桜井さんというサングラスの方は昭和30年1月20日、坂崎さんというアコースティックギターを演奏される方が昭和29年4月15日、そして高見沢さんというブロンド長髪のベルバラみたいな方も昭和29年4月17日とのことです。つまり51歳と52歳のおっさんがエレキギターやベースを抱えてステージを走り回っているわけです。

 これって、よく考えてみるとなかなか大変なことですよね。言うまでもなく老化現象は万人に等しく訪れるわけで、詳しくは存じ上げませんけれどもきっとベルバラの高見沢さんだって素顔に戻れば白髪頭のフツーのおじちゃんに違いありません。それでも彼らはスリムな体形を維持し、私が学生の頃に見ていたのとほとんど変わらない姿で今もテレビに登場し続けています。久しぶりにテレビでその姿を拝見して、すげえなー、と心の底から拍手してしまいました。

 そういう私も、外見はともかくお陰様で健康に恵まれて、入院するような病気をしたこともなく仕事もほとんど休んだこともなく、悩みといえばゴルフのスコアくらいのもので今日まで幸せな人生を送ってきております。私は、自営業なので幸か不幸か「勤務先の健康診断」というのに参加したことがありませんで、こんなことを言うとお医者様には叱られてしまいますが、人生のハイウェイをほとんど無車検で走り続けております。
 「大丈夫、自分の体は自分が一番よく知ってるから」とか、「いくら検査したって病気になるときはなっちゃうしさ」とか、「人生、太く短くでしょ」とか、「俺、病院に行くとかえって体調が悪くなっちゃうんだよねー」とか、「あー、このワイン旨いねーガフガブ」とか、もうアホというか無謀というか、でもそれほどアホとも無謀とも思わず、何の反省もないままスイスイとやってきたのです。

 ところがそんなイソップ童話のキリギリスのような私の乱行を見るに見かねた某社長様が、ありがたいことに「いい加減にしなさい」と人間ドックの手配をしてくださり、先日強制連行されて久し振りに病院の空気を吸ってくることになりました。
 でももちろん検査結果は優秀で、即日診断の面接の部屋で担当の先生から「須田さんはまだお若いし、特に悪い病気も診られません。たばこも吸わないとのことですし、運動もそれなりにしておられるようですから、お酒の量を多少控えて、これからもお元気でお過ごしください」なーんて、もう浮き浮きするようなありがたいコメントを頂戴して、スキップしながら家路に着いたのであります。
 と、ここまではよかったんですが…

 それから数日後、私の携帯に見慣れない番号から着信がありました。なんだろ、と訝りながら出てみたら「こちら○○クリニックの○○と申します。先日の検査のことで、担当の先生から少しお話があるのですが、今お話をしても大丈夫でしょうか」という女性の声。
 「少しお話がある?」………まさかゴルフに行きませんか、なんて話のはずがないし、なんだかいやーな予感がします。「はあ」と生返事をしたらすぐに男性に代わって「須田様ですか、私、検査結果をチェックしております医師の○○と申しますが、少し気になることがありますので来院していただいた方がいいと思うのですが…」なんて仰るじゃあーりませんか。
 話を聞いているうちに、携帯電話を持っている手に脂汗がジトーっとわいてきます。気がつけば心臓はドキドキと早鐘を打っているし、たぶん横から見たら、ちびまる子ちゃんに出てくる目の辺りに斜線が入ったような顔になっていたに違いありません。
 いつかはこういうときが来るんだろうな、と以前から何となく考えてはいました。そしていざそうなったら、取り乱したり泣いたりせずに、深呼吸をして、淡々と「そうですか。先生、余命はあと何ヶ月?」くらいのことは言いたいな、と思っていたのです。
 そう思っていたのにぃ、なんだこの目のまわりの斜線は。なんだこの心臓の鼓動は。なにが「いくら検査したって病気になるときはなっちゃうしさ」だ。おれって何てちいせえヤツなんだ、とどちらかと言えばそちらのショックのほうが甚大です。

 そんなわけで呼び出しを食らった私は、それから一週間ほどして、電話をくれたお医者様の診察室で先生と一緒にパソコンの画面を見ながら色々とお話を伺うことになってしまいました。
 当日は、まず最初にものすごく立派な検査室に連れて行かれてMRIという人間を輪切り撮影する機械の中に閉じこめられ、地下鉄の工事現場みたいなガガガガガガガガという強烈な音が鳴り響いてくる苦行に30分ほど耐え、「やっぱり病院に来ると病気になりそうだ」と性懲りもなく思ったりしていたのですが、そこで撮影された画像があっという間にパソコンのモニターに映し出されるという、IT革命の素晴らしさを実感することもできたのです。
 そして白衣の先生は、その画像を見ながらものすごく慎重に、ものすごくゆっくりと、そしてものすごくおごそかに仰いました。
先生「ここに影があるのが分かりますか?…」
私 「あ、はい。確かに何かありますね。」
先生「これは、最悪のストーリーですと……」
私 「最悪のストーリーですと?」
先生「最悪のストーリーですと………」
私 「はあ」
先生「………………」
私 「………………」
先生「悪性リンパ腫を疑います」
 がーん。せんせー、悪性リンパ腫を疑っちゃイヤ〜……。結構ショックです。潜水艦の攻撃を避けるのに必死で蛇行している戦艦の横っ腹に魚雷が命中したような、そんな水柱が立つ画像が頭に浮かんだりします。
私 「あの、悪性でない場合は?」
先生「そうですね………………」
私 「………………」
先生「良性なら、慌てることはないとは思いますが、摘出することになるかもしれません」
私 「そうですか。それって痛いですか?」
 間抜けだ。なんという的外れな質問をしてるんだ、俺は。
先生「いずれにしても、これから血液検査を受けていただいて、その結果を見て検討することにしましょう」
私 「分かりました、よろしくお願いします」
 というわけで、地下鉄工事の次は血抜き工事をすることになってしまいました。

 そしてその後もいくつかの検査を受け、それから家に帰ってまんじりともしない日々を過ごし、再び病院を訪れることになりました。
 いよいよ判決の日が訪れます。有罪確定か、無罪放免か。事の次第によっては人生が大きくカーブしてしまうかもしれません。それなりに平静ではありましたが、それでも子供のことや仕事のことなど、考えても仕方がないとは思っても色々なことが頭に浮かんできます。そして気を揉みながら先生の前に座ったら、先生は「須田さん、よかったですね、血液検査で悪い数値はありませんでしたよ」と仰ったのでありますぅぅぅぅ。
 よかった〜〜〜。キッセイ薬品?のテレビCMで、お医者さんが「がんばったねぇ」とテノールの美しい声を響かせるヤツがありますが、まるでそれを聞いたような感じ。

 あははは。なんだ、大したことなかったんだー。よかった〜。あははははははははははは、それじゃ今夜はお祝いに旨いもんでも食べちゃおうかなー。あははははははははははははははははははははは、すごく幸運だからギターでも買っちゃおうかなー、なんて気持ちはどんどん大きくなっていきます。
 そんなわけで今月はお医者様のありがたさを実感してしまいました。そして今まで「太く短く」なんて偉そうなことを言ってきたのが全部カラ威張りだったということも痛感し、深く深く反省しております。

 ずいぶん前のことなので記憶が定かでありませんが、ミュージシャンの坂本龍一氏がかつてのイエローマジックオーケストラのメンバーと談笑しているシーンがテレビで放映され、その中で自嘲気味に「最近はお互いに病気自慢をするようになっちゃいましたよ」というようなお話をされていたのを思い出します。そして今回の経験を通じて、私は病気自慢という言葉の意味が少し分かったような気がします。
 病気を人に自慢?すると、その人が自分に対してどのような感情を抱いていてくれるのかが分かったりします。そしてそれを確認したくなっちゃったりもします。また、病気が自慢できるということは、実は健康な証拠なのかもしれない、ということも言えそうです。年を取れば誰でも具合の悪いところの一つや二つはあるもので、それを話題にして笑い飛ばせるうちは幸せ、ということではないでしょうか。というわけで今月の一押しはいまいちパッとしないお話でしたが「病気自慢」でした

 でもさあ、こういう話をすると皆さんにご心配をお掛けするんでホントにまずいですよね。え?お見舞い?いいっていいって、気にしないで。ほんとにいいから。え?どうしても?じゃ後で振込先の口座番号教えようか…

 

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