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今回の一押しは「フグ刺し」だあ!

2007年11月29日

 このコーナーの本年7月号で「お疲れ様」のお話をしましたところ、読者の方から予想外の反響をいただきまして嬉しくなりました。言葉遣いって、結構気にしている人が多いようで、我が意を得たりと仰る方もあれば、そうは言うけど業界ではかなりはびこっちゃってるからどうしようもないんだよね〜、と諦め気味の方もおられました。
 私も、「お疲れ様」を撲滅しようと意気込んでいるわけではありませんけれども、やはりTPOに応じて正しい言葉を遣いたいものだなあ、と改めて思い、この駄文が一人でも多くの方がそういうことに配慮してくださるきっかけになれば大変うれしく思います。
 何だか、冒頭から天皇陛下のお言葉みたいになっちゃったかしら…。

 ついでですから言葉遣いのことでもう少しお話を膨らませてみますと、最近の若者用語で私が「お疲れ様」と同じくらい違和感を感じる言葉に「大丈夫です」というのがあるんですが、みなさん大丈夫ですか?

 日頃、世代の違う人と接する機会がない人には何のことか分からないかもしれませんが、最近の東京三多摩エリアでは、明らかに「大丈夫」が大丈夫でなくなってきているんですよ。
 というのは、私が知っている「大丈夫」という言葉は、辞書によれば、
@何かに対処できる条件が十分で、危険や心配がない様子
 用例−「私に任せておけば大丈夫」、「この水は飲んでも大丈夫」
Aよい結果になることを請け合うこと
 用例−「大丈夫、きっと成功するよ」
 つまり、英語で言うなら ' It's all right ! ' のはずなのです。
 ところが最近あちこちで、頻繁に、繰り返し繰り返し耳にする若者用法は、たとえばレストランで「お水のおかわりお持ちしましょうか?」と店員さんが言うと「いえ、大丈夫です」とか、洋服屋で店員さんが「よろしかったらご試着もできますので」と勧めてくれると「あ、大丈夫です」とか、要するに「結構です」という、英語で言えば ' No , thank you 'の意味で遣われているのです。
 おい、若者。てめーら…。一体何考えてんだよ…。間違ってんだろーが、言葉遣いが。いつからこんなことになったんだよ。使い方を勝手に変えるんじゃねーよ!と、ここでキレても始まりませんがこれは絶対におかしいでしょ。あー気持ち悪い。大丈夫じゃないんだよ、ほんとに。
 きっと、「お水のおかわりは頂かなくても、私はのどが渇いていないので大丈夫です」が詰まって「大丈夫です」になったんだと思いますけど、でも違うんだよなあ。
 
 繰り返し申し上げておりますが、日本語って本当に難しい。私も「いいですよ」という言葉に苦い思い出がありまして、はるか昔の初心者運転の頃、ガソリンスタンドで給油をしようと思ってたまたまバックで車を入庫したところ、誘導してくれたスタンドのお兄ちゃんが後方から「いいですよー、いいですよー」と大きい声を掛けてくれます。
 私は「もっとバックしていいですよー」の意味で「いいですよー」と言ってるのかと思ってトロトロと車を進めたら、そのお兄ちゃんは「もう止まっていいですよー」の意味で声を発していたんですね。気がついたら、クシャ。という音がして、私の車は後ろの車とコッツンコしていました。だから車の運転はキライなんだ、俺は…。

 それでも、「大丈夫」というのはまだ単語として日本語になっているから許せなくはないですが、フツーの女の子が自転車を「チャリ」と呼んだり、無視することを「シカト」と言ったり、ほんとによく分からない意味不明の「なにげに」という副詞?を連発したりするのを見ると、強烈にガッカリします。
 「昨日さぁ、チャリで駅に向かってたらキョーコがカレシと歩いててさぁ、アタシの方を向いたのにシカトしてんの。なにげにむかついた。アリエナクナイ?」
 こういうのを聞くと、ヘッドロックするぞテメー、と言いたくなりますが、それって私がクソジジイになっちゃった証なのかしら?
 
 いかんいかん、また熱くなってしまいました…。

 頭を冷やして、話題を変えましょう。
 唐突ですが、ここのところ流行ってますねぇ。何が?って、食品偽装が(笑)。

 しばらく前には雪印乳業やペコちゃんの不二家で世の中大騒ぎになりましたが、その後も主役が交代して、ミートホープ、白い恋人、伊勢の赤福、吉兆、からし明太子、マクドナルドと、もう次から次へと火の手が上がっています。
 これだけ一流ブランドで事件が続発しますと、きっと誰でもそうでしょうけど、何を見ても「これって本当に大丈夫?」と疑いたくなってしまいますよね。○○産の商品を××産と偽って売ったり、賞味期限のシールを貼り替えて何ヶ月も前の製品を出荷したりと何でもありの感じですが、不思議なことにそれを食べて腹痛を起こしたり食中毒で入院した、というような話を聞いたことがありません。
 福田総理も仰ったようですが、こうなると、そもそも食品の賞味期限ってナニ?という疑問が浮かんでくるのももっともな話です。

 よくは覚えていませんが、私が子供の頃には「これを食べても大丈夫か?」ということが結構な頻度で食卓の話題になっていたような気がします。
 たとえば「火を通しても開かない貝を無理矢理こじ開けて食べると食中毒を起こすよ」とか、「生卵を割って黄身が壊れていたら腐っている証拠」などという生活の知恵を親から教わっていて、何を食べるときにも、まずは臭いをかいで「うん、大丈夫」と安心してから食べ始めたんじゃなかったかしら。
 我が家の愛犬はるちゃんも、さすが野生動物、こんなに愛情を注がれて信頼できるはずの飼い主が手渡しであげるおやつでさえ、いまだに用心してじーっと観察して、クンクンと臭いをかいで、それから恐る恐る口に入れるということを繰り返しています。

 それに比べると人間様はあまりに無防備ですよね。私も枝豆の形をした鉄製の箸置きをそのまま口に入れて歯が欠けそうになったり、コップの液体を水だと思ってガブッと口に入れたら日本酒で目を白黒させたりと、あまり人には言えないようなことを何度か経験しています。
 世の中が便利になりすぎて、色々な情報が洪水のように溢れて他人が何でもやってくれるようになったせいか、人の精神的幼児化はかなり進んでいるようで、外国では「たばこを吸ってガンになったのはたばこの箱に危険と書いてないからだ」というような無理矢理の屁理屈というか難癖をつける人が裁判を起こして、ホントかどうか知りませんけどそれで勝訴したりすることがあるらしいから困ったもんです。

 日付をごまかして販売するのは明らかにいけないことですが、賞味期限のラベルを見て、味見もせずに「もうダメだ」とポイポイ捨ててしまう消費者にも問題があるような気がしませんか?
 「熟す」と「腐る」は紙一重ですよね。だから恐らくほとんどの食べ物は腐る直前が一番おいしいはず。たとえば納豆なんて、経験的にいうと賞味期限を1週間くらい過ぎたあたりが最高においしい気がします。だから子供たちにも腐ったモノの臭いをもっと嗅がせて、腐敗直前の味を経験させて、味覚や嗅覚を鍛えてあげることが必要なんじゃないかな〜。
 人様の家にお呼ばれして、出されたご馳走の臭いをクンクン嗅ぐようではみっともないですが、せめて家にいるときくらい、たまには腐ったものでも混ぜて出してリスクを実感させるくらいのことをしてもいいような気がします。私は既に年をとったのでイヤですが(笑)…。

 「腐る」のとは話が違いますが、「毒」というのもちょっと魅力がありますね。人間も、真面目で素直でおとなしい人は確かに貴重ですが、趣味もなく、意見も言わず、ただジーッと座っているだけの人なんて面白くも何ともありません。
 それよりは多少「毒」があってバイタリティに溢れていて、よく言えば「個性的」、はっきり言えば「いやなヤツ」くらいの方がつき合っていて楽しくありませんか?私の周りにいる友人も、新井さんとか、新井さんとか、新井さんとか、もうホントにいやなヤツばかりです。
 昭和50年に、人間国宝で歌舞伎役者だった板東三津五郎さんという方がトラフグの肝臓を食べて亡くなる、という事件がありました。当時学生だった私は、当然にフグなどというものにお目にかかったことがあるはずもなく、料理屋で自ら進んで毒を食べて亡くなる、なんていうことが全く理解できませんでした。新聞の見出しを見て凄くショックを受けたことを覚えていますが、さすがにこの年になると、もちろんフグの毒で死ぬのはイヤですが、でもちょっと分かるような気もします。
 ゲテモノ食いの趣味はありませんけれども、ありきたりのものばかり食べていると、きっとすごく辛いものとか、少し腐りかけているものとか、ちょっとヤバいものとか、舌がピリピリするものとかを食べてみたくなるんじゃないのかなあ。

 寒くなってきましたね。冬といえば暖かいお部屋で、熱燗をちびちびやりながら、冷たい牡蠣やフグなどを頂くのが最高の贅沢というものです。札幌のススキノで娘の彼氏のりょーた君と二人で食べたフグ刺しは最高に美味かったですが、近頃は比較的リーズナブルな値段で、まあまあのお味のてっさやてっちりを楽しめるお店も多くなってきました。
 毎晩というわけにはいきませんけれども、たまには食品の賞味期限などというテーマに思いを馳せながら、薄切りにされたてっさを箸でガーッとひとまとめにして口に放り込む、なんていう贅沢をしてみたいものです。というわけで今月の一押しは、年に一度くらいは食べてみたい「フグ刺し」でした。
 
 それにしてもフグって実に不思議な食べ物ですよね。そのもの自体にはあまり味はありませんが、あの歯ごたえを代用できるものがありません。だから思い出すとまた食べたくなるのです。
 まあ、若い方の中にはまだ経験のない人も大勢いらっしゃると思いますが、若いうちからあんな高価なものを食べてはいけません。私が初めてフグというものを口にしたのは多分40歳くらいになってからだと思います。だから20代や30代のあなたを誰かが「フグでも食わせてやろうか?」なんて誘ってくれても、絶対に断らなければいけません。
 え?そんなときにやんわり断るセリフ? それは「あ、大丈夫です」に決まってるだろ…

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