konge-log.gif

今回の一押しは「アップルストア」だあ!

2008年08月31日
 

 最近の天気は一体どうなっているのでしょうか。「ゲリラ豪雨」などという耳慣れない言葉がマスコミに登場するようになり、現実に毎日のようにものすごい雨や雷が襲ってきて生きた心地がしませんよね。各地で家族を亡くされたり、住宅や家財に大きな被害を受ける方が続出して、本当にお気の毒なことです。
 それを思えば、電車が止まったくらいのことで文句を言ってはいけないのかもしれませんが、それにしても大自然の強烈な力と高度化した都市生活の脆弱さを感じずにはいられません。むかし小松左京氏の「日本沈没」という小説が映画化され話題になりましたが、最近の日本は、地震が多発し、豪雨で人の命や財産が押し流され、何だか沈没寸前のような状況です。

 「環境破壊」とか「地球温暖化」という言葉は、イメージが大きすぎて自分には関係のないことのように思ってしまいますが、昨今のこういう状況を見ていると、日本も亜熱帯化している、地球温暖化は確実に進行している、ということを肌で実感してしまいます。グアムやサイパンのゴルフ場なら、スコールがザァーッと来ても「キャーすごい〜」と笑って済ませられますが、スーツ着て重たい鞄持って走り回っているときに雷雨に襲われたのではたまりません。本当に何とかしなければ、このままでは地球が危ない。みんな、エアコンの設定温度は高めにしてある?電気つけっ放しにしてない?エコライフに協力しようね〜。

 話は飛びますが、大雨が降ると携帯電話ショップの店員さんは憂鬱になるそうです。というのも、雨が降った翌日には電話機が故障したというお客がたくさんやってくるからなんですね。携帯電話の水没事故は、その所有者の負担で修理または取り替えをするのが原則のようですが、世の中にはなかなか強気の理屈をぶら下げて登場する人がいるらしく、水没というのは電話機をトイレに落としたようなことをいう→大雨が降ったのは自分のせいではない→雨による電話機の故障は自分に非がない→無料で新品に交換せよ、という論理になるらしい。
 靴が雨に濡れて変形したとして、それを無償で新品に交換できると考える人はまずいないと思いますが、携帯電話ショップというのはそういう無理難題というかめちゃめちゃなクレームをつけやすい空気が漂っているのか、なぜか店頭で意味不明の爆発を起こす人が多いんだそうです。
 もっとも世の中にはいろいろな人がいますから、この程度のクレームはまだ可愛い方なのかもしれません。私が今までに聞いた話で一級品だなと思ったのは、ある建設会社が個人住宅の建築を請け負って、無事に建物が完成したら施主さんが「私の家を建てるときに掘り出した土はどこに持っていった?あれは私の財産なのに黙って持ち出すとは何ごとか。返しなさい」と仰ったとか……。

 いやー、実に恐いです。こういう話を聞くたびに、気の小さい私などは早くビジネスの世界から足を洗って一日も早く平穏な農耕生活にたどり着きたいと思うばかりですが、なかなかそういうわけにもいきません。そんなわけで最近の私はクレームの話題には結構敏感になっておりますが、ひょんなことから先日、自分がクレームをつける立場に立つ経験をしてしまいました。

 というのも、私の大切なi-podが故障してしまったのです。実は購入当初からその症状だったので、どうも初期不良だったらしいのですが、私は最初からその状態で使用していましたので、i-podというのはそういう製品なのだと思い込んでいたのですね。ところが同じ型の端末を使っている息子が、ある日私のを触っていて「あれ?これおかしいじゃん」という話になり、それから購入したヨドバシカメラに足を運んでみたわけです。

 ところがびっくり、あの親切丁寧で私にとっては顧客満足度1のヨドバシカメラの店員さんが、「お客様、申し訳ありませんがi-podの修理等は当店では一切お取り扱いしておりません」と仰るじゃありませんか。「は?…」 そんな馬鹿な。ヨドバシカメラともあろうものが、自社で販売した商品のアフターサービスを一切やらないなんてどういうこと?と思ったら、なんとアップルの製品はすべて「アップルストア」という直営店のみで受け付けているというのです。
 鬼畜米英め、松下、ソニー、三菱、シャープなどの世界に名だたるジャパニーズ家電製品の商慣行を一切無視して独自のルールを敵国に持ち込むとは何ごとか!と一瞬思いましたが、そこで爆発しても相手はアップルの社員じゃないし仕方がないので、渋谷のアップルストアの場所を教えてもらって、その場はお行儀よく引き下がりました。俺ってジェントルマンだなぁ…

 そして後日、今度はどんな風にして暴れてやろうかと頭の中でクレームのシミュレーションをしながら渋谷の坂道を上り、ようやく目的地の「アップルストア渋谷」にたどり着きました。「往復の交通費はどうしてくれるんだ」「わざわざ仕事を休んできたんだぞ」「なんでこんな製品を売りつけるんだ」などなど、クレームのネタは泉のように湧き上がります。
 ちょっと恐そうなイメージを演出するにはどういう顔つきがいいかな、思いっきり低い声でボソボソ話そうか、などとあーでもないこーでもないと考えながら、少し緊張しつつ二階の修理受付コーナーに行ったら、なんと私を待っていたのはパソコンのモニターでした。
 「お客様、いらっしゃいませ。修理のご相談ですか?それでは恐縮ですがこのモニターからエントリーして下さい」と若くてきれいなオネーサンが仰います。いきり立っていた私は、思いっきり低い声で「あ、はい。」と素直に答えてしまいました。くっそー。
 そして自分のアドレスと携帯番号をインプットしてみたら、なんと修理の受付は本日だったら18時、18時15分、18時30分のいずれかしかないじゃありませんか。「てめーふざけんなよ。今12時じゃねーか。このやろー」とトグロを巻こうと思っても、相手はモニターですからどうにもならず、仕方がないので明後日の午後1時に予約して、またもやお行儀よく帰ってきてしまいました。くっそー。

 そしてようやく、2回目の渋谷行きで自分の順番が回ってきます。どんどんテンションが高まっていきます。受付カウンターの後方には大きなモニターがあって、修理待ちのお客様氏名がずらっと表示されており、それが次々にせり上がって「スダ様」の番が回ってきました。おっしゃー、暴れてやるぞー、とカウンターに進んだら、今度私を待っていたのはイケメンのおにいさんでした。カッコいいのでちょっとひるんでしまいましたが、私はクレームをつけようと思って来たのですから、ここで負けるわけにはいきません。ようし、こいつが変なことを言ったらタダじゃ済ませねえぞ、名前は何というんだ、頭に叩き込んでおいてやるー、と胸に下がった名札を見たら、なんとそこには「akira」と書いてあります。
 
 やばい、かっこよすぎる…。ちょっとクラッときてしまいます。アキラくんかぁ、いい名前だなぁ。なかなか素敵だよねキミ。俺ってもしかして、今ニューヨーク?
 頭の中の妄想はどんどん膨らみます。全然関係ありませんが、akiraという名前から、私は観葉植物のパキラを思い出してしまいました。そういえば昔、自宅にあったパキラの鉢植えを見てふと思いつき「にしきのぱきら」と口走ったのが子供たちに大受けしたことがあったっけなぁ…。いけない、そんな昔のことで悦に入っているようでは、私も昔の人になってしまったということですね。

 いかんいかん。クレームを付けにきたんだった。「あのー、このロータリーホイールの具合がおかしいんですが。しかも買ったときから」と作戦通り、極めて低い声でボソボソと言ってみます。するとakiraくんは、しばらくi-podを操作していたと思ったら「あー、お客様。大変申し訳ありません。確かに不具合ですねー。もし差し支えなければ、新品と交換させていただくことになってしまうのですが」と驚くようなことをのたまいます。
 「え?」「新品と交換?………」今なんて言ったの?ほんとに新しいのと取り替えてくれるの? まじすか。させていただくことになってしまってケッコーですから。全然問題ありませんから。というより、気が変わらないうちに早くお願いしたいんですけど。と途端に揉み手の笑顔に変わってしまい、「はい」というところを「へい」と言ってしまいそうになります。

 すげー。実にすげー。アキラ様は保証書を見せろなどというケチなことは一切おっしゃいません。どこで買ったんですか?なんて人を疑うようなこともお聞きになりません。製品のシリアルナンバーを控え、新しい製品のシリアルナンバーをパソコンのキーボードからクールに登録し、そしてたった一言「お客様がお買いになった画面の保護シールなんですが、こちらは廃棄させて頂いてもよろしいでしょうか」と申し訳なさそうにおっしゃいました。「いいです。いいです。そんなもんどうでもいいです。また買いに行きますから、あはは。」なんてクレームを付けに行ったはずが愛想笑いまでしてしまう私。

 アップルというのは実にすごい。考えてみたら、i-podのデータはすべて自宅のパソコンの無料でダウンロードした i-tunes というソフトの中に入っているわけだし、新品のi-pod を持って帰って同期作業さえすれば、たちまち元通りになってしまうわけです。住所録が消えたじゃねーか、どうしてくれるんだとか、エディの残高を消したのはお前のせいだ、なんていうクレームとは全く無縁です。最初からこういうことまで想定して開発されたのかどうかは知りませんが、結果として、クレーム対応が実にスムーズに進むように出来ています。もしかしたら私のケースは例外で、いろいろとトラブルになることもあるのかもしれません。しかし少なくとも今回の経験で、私は素晴らしいビジネスモデルの一例を垣間見せてもらったような気がしました。というわけで今月の一押しは、クレームを付けるつもりがしっぽを振って愛想笑いまでしてしまった「アップルストア」でした。
 
 ヨドバシカメラの店頭で予想外の返事をもらった私と息子は、他に用事もないのでエレベーターに乗って地下3階の駐車場に降りることにしました。ドアが開いて「B3」のボタンを私が押したら、結構な人数が乗ったのに一緒に乗った人の誰も他の階のボタンを押しません。そんなこともあるんだなと思って、息子に「みんなB3だな」と小声でつぶやいたら、息子は怪訝な顔をしながら他の人の足下を一生懸命見回しています。
 何をしてるのかと思ったら、私が言った「みんなビーサンだな」を息子は「みんなビーチサンダルを履いてるな」と聞いたらしい。ふざけんなよお前、ビーチサンダルをビーサンなんて略すからそういうことになるんだよ。ほんと、日本語は正しく使って欲しいわ… 

HOME ・ LIST ・ TOP