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今回の一押しは「会社経営」だあ!

2008年09月30日
 

 不思議なもので、人には生まれつきタイプというものがあるようです。学校の勉強でいうと、誰かに教わったわけではないのに算数や理科が得意でそのまま「理科系」の道に進む人があるかと思えば、理数系は全くダメだけどどういうわけか古文や英語が得意だという人がいます。すべてに万能という人にはあまりお目にかかったことがありません。

 また、スポーツ万能で野球もサッカーもバスケットボールもそつなくこなす人がいる一方、運動神経は全然ないけれど絵を描いたり文章を書いたり楽器を演奏すると素晴らしい能力を発揮する人がいます。これも両立はなかなか難しいようで、中には以前にもご紹介した大リーガーでプロのジャズギタリストでもある、という天が二物を与えたような人もいますが、一般人の間では、趣味はアウトドアかインドアかのいずれかに分かれるようです。

 そういう私も、中学、高校の頃はどういうわけか英語と古文が得意で、文系の科目はそれほど勉強しなくても何とか合格点を取れましたが、これが数学や物理になるといくら努力してもまるで歯が立たず、自分のアホさ加減に本当に嫌気が差したものでした。また生まれつきの貧弱な体格で、スポーツは何をやっても上手くいった試しがなく必然的にコンプレックスを抱くようになりましたが、有り難いことに手先が多少器用だったお陰で、それほどうまくはなりませんでしたが楽器の演奏を楽しむことが出来ました。

 そういうようなわけで、多くの人が自分の守備範囲を認識し、「カラオケなら参加したいけどスポーツ大会はいや」とか「ゴルフコンペならいつでも行くけどクラシックのコンサートなんて死んでも行かねーよ」というように自分の縄張りの中で、あるいは自分が楽しめると想像できる範囲で生活しているわけです。 
 しかし思った以上に人生は長いものです。そして何かの出会いやきっかけで自分には関係ないと思い込んでいた世界に引きずり込まれたとき、そしてその世界が自分勝手に抱いていたマイナーなイメージとは全く違うものであることを発見したとき、人は大きく後悔するのです。「何でもっと早く気づかなかったんだろう」と。

 当然のことながら、こういう経験をするためにはある程度年をとらなければなりません。そもそも自分自身を確立するために、幾多の修行をする必要があります。そしてその後、他人を鏡として、自分がどういうタイプの人間であるのかを知るまでにかなりの時間がかかります。また、異なるフィールドに飛び出していくチャンスにもそんなに簡単に巡り会えるものではありません。
 
 私は、高校生の頃は化学の世界で活躍したいと考えていました。たまたま読んだ一冊の本がきっかけで有機化学ってなんて面白いんだろうとのめり込んだのですが、しかし自分の脳みそが理数系用にできていないことを知って愕然とし、たまたま父親が税務署員だったという家庭環境に影響されて、気がついたら税理士になっていたのでした。
 そしてそれ以来、三十年近くの間、税務と会計の世界で生きてきました。

 外部の人からは、税理士とか会計事務所の仕事というのはとても細かくて面倒くさいもののように見えるかもしれません。しかし最近気がついたのですが、実はこんなに楽な世界はありません。
 会計基準や税法にがんじがらめにされているということは、裏を返せば常に拠り所があるということであり、困ったときに頼れるスタンダードが存在するということです。したがってこの仕事をしていく上では、「人生に悩む」とか「どうしたらいいか分からない」ということはほとんどありません。自分の勉強不足や能力不足で仕事について行けないという心配はあるかもしれませんが、仕事上の悩みで自ら命を絶ったというような話はあまり聞いたことがありません。
 またほとんどの場合において税理士は評論家的な立場にあり、他人のやったことを批判し、あるいはやろうとしていることに対して相談に乗ることを業としています。私自身も、長い間、暴走しようとする経営者のブレーキ役として生きてきましたし、それが私の天職だと信じて仕事をしてきました。「社長、そんなことをやったら資金繰りが回らなくなりますよ!」「そんな無謀な新規事業には手を出さないほうがいいんじゃないですか?」「やるなら○○のリスクだけは承知しておいてくださいね」。こんなことを毎日のように話し、それでお金を頂いてきたわけです。

 ところが最近、人生は何が起きるか分からないものだなあとつくづく思うのですが、自らが企業の代表取締役に就任することになってしまいました。それも社員数が100人を超える、なかなかしっかりとした中堅の中小企業のです。  

 その会社と私とは、一企業とその関与税理士という関係でお付き合いをしてきました。もちろん一族だけで経営している、絵に描いたような同族会社です。しかしその会社の社長はとても近代的な考え方をなさる方で、早い時期から「経営は可能な限り従業員に公開する」、「身内だからというだけで後継者を選ぶことはしない」ということを信条としておられました。
 私もその考え方に強く共感し、出来る限りのお手伝いをして、また報酬を頂きながらさまざまな問題にぶつかるたびにそれを解決するための勉強をさせて頂いてきたのです。
 従業員は中途採用ばかりで、場当たり的に給料を決めてきたため社員間で不公平感が募っている。事業を拡大していきたいが、どこの店が黒字でどこが赤字かよく分からない。会社の中を活性化させる仕組みがない。週末に慰安旅行を企画してあげたら一部の社員が休日出勤手当をくれといってきた等々…。
 よくもまあ次から次へといろいろな問題が沸き起こるものだなあ、と感心する反面、企業の経営というのは本当に大変なことだとつくづく思いました。しかし念ずれば通ずといいますか、信念を持って一つ一つのトラブルに対処していくうちに会社は徐々によくなっていきました。私が関わり始めた当初は、社員数は30名前後だったように思いますが、今では学卒の定期採用を実施する、足腰のしっかりした会社に成長してきました。

 もちろん私の仕事は税理士ですし、あくまで社外ブレーンとして会社の成長を見守りたいと思ってきました。しかしさまざまな出来事があり、その積み重ねの中で、今回私が舵取りをすることになったのです。

 今まで数多くの社長と呼ばれる人とお付き合いしてきましたが、今回自分自身が社長になってみて、実感することが沢山あります。まず第一に痛感したのは、既にお話しした「会計事務所の仕事は思っていた以上に楽だ」ということです。
 ゴルフにたとえるなら、会計事務所の仕事はネットで囲まれたゴルフ練習場の中でボールを打っているようなものです。どんなにひどい球を打っても、ボールがよその家に飛び込んでいくことはありません。打席には白いラインが引いてあり、どこを目指してクラブを振ればいいのか初心者でも分かります。困ったときにはレッスンプロがいて、親切丁寧に指導してくれます。
 ところが企業の経営には、「こうしなければならない」という基準がほとんど存在しません。もちろんコンプライアンスや個人情報保護などの法的な規制は沢山ありますが、それらは殆どが「これをやってはいけない」という規制であり、「こうしなければならない」という積極的なアクションへのアシストではないのです。いわばネットも白線もない本当のゴルフ場で、好き勝手にクラブを振り回すようなものです。
 コースのレイアウトを知らないと、とんでもない方向にボールを打ってしまうかもしれません。打っても構わないのですが、その結果はすべて自分のスコアに跳ね返ってきます。また時には、隣のホールからボールが飛んできて怪我をすることもあります。突然の雷雨で命を落とす危険にさらされることだってあるのです。

 正直に言うと、とても恐いです。スムーズに打たなければ後続の組に迷惑をかけますが、慌てて打って前の組にボールを打ち込んだら、恐いお兄さんに因縁を付けられるかもしれません。天気が悪い日だったら自宅でジッとしているほうがいいかな、なんて思ってしまうこともあります。世の経営者や政治家が、高名な占い師の下に密かに通っている、などという話ももしかしたら本当かもしれない、と最近はまじめに考えています。

 しかし同時に、企業経営は相当面白いぞ、という手応えも感じます。自分がアイデアを出せば、それを受け止めてくれる人がいてくれて、そのほとんどがあっという間に実現してしまいます。
 税理士の仕事は、売上とか利益とか納税などという抽象概念を操っており、その作品は基本的に無形ですが、会社経営は、人が動き、ものが動き、お金が動きます。そのほとんどが可視的です。自分の指図一つで右を向いていた人たちが一斉に左を向いてくれるのです。これはたまりません。毎日「あっち向いてホイ」をやりたくなってしまいます。ほんとにやったらとんでもないことになってしまうでしょうけど。
 このようなわけで最近の私は、会議の進め方や人材活用など経営に関する書物を読みあさり、多くの人と飲食を共にして情報交換をし、今までとは比べものにならないハイペースで初対面の人と名刺交換をし、社長業に没頭し始めています。まだまだ新米ですが、税理士の知識とノウハウを土台にして、新たなステージにチャレンジしようと燃えています。そんなわけで今月の一押しは、私に人生の新しい喜びを教えてくれた「会社経営」でした。

 繰り返しになりますが、企業経営というのは本当に自由で、何をやってもいいというか晴れ晴れとした気持ちになります。しかし本音を言うと、とっても恐いのね。自分の判断は誤っていないか、気づかないうちに法律を犯しているのではないか…。こういう心配の種は尽きません。そんなときに頼りになるのは誰か。そうか、それは税理士に決まってるよな! どこかに優秀な税理士いないかねえ。お願いだから誰か紹介して…

 

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