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今回の一押しは「なーんでかフラメンコ」だあ!

2008年11月30日
 

1.今度入った女の子、美人だけど気が強くてねぇ…
2.今度入った女の子、気は強いけどなかなかの美人だよ。

 この二つの文章、「新人女子社員」「美人」「気が強い」という3つのキーワードの並び順を変えただけのものです。したがってそこに含まれる情報の量はほとんど同じですが、しかし聞き手の頭の中にはまるで違うイメージが浮かんできませんか?
 1の女の子は、すぐに文句を言って周りの人とトラブルを起こしそうな感じですが、2の方は健気に頑張っていそうな、素敵なイメージが漂ってくる。語尾の「ねぇ…」や「だよ」が影響を及ぼしているのかもしれないので、下記のように片言の日本語をしゃべる外国人の口調をまねても、私は同じように感じます。

1.今度入った女の子、美人、気が強い
2.今度入った女の子、気が強い、美人

 どうです?皆さんはどのように感じます?やっぱり2の方に好感を持ちませんか?
 もしそうだとしたら、その原因は人間の思考回路というか言葉の用法にあるように思うのですが、どうでしょうか。
 私は言語学者ではありませんので、所詮素人の想像に過ぎませんが、誰でも大切なことは一番最後に、勿体をつけて言おうと考えます。だから一番強調したいことは一番最後に持ってくるし、そういうものだと聞き手も予想している。したがって「美人」と「気が強い」の二つのイメージのうち、後に来た方がメインに感じられる、というわけです。
 このことはおそらく世界共通で(繰り返しますが素人の戯言ですから)、たとえばニーナ・シモンという人の歌唱で有名になった「My Baby Just Cares For Me」という素晴らしい曲がありますが、その歌詞なんかは好例です。

 My baby don't care for shows 
 My baby don't care for clothes
 My baby just cares for me   
 My baby don't care for cars and races
 My baby don't care for high-tone places

 Liz taylor is not his style    
 And even lana turner's smile
 Is somethin he can't see    
 My baby don't care who knows
 My baby just cares for me

 要約しますと、私の彼氏はお芝居にもファッションにも興味はない、車やレースにも興味がない、エリザベス・テイラーはタイプじゃないし、彼の心は私だけ、という、何とも他愛ないというか天真爛漫というか、およそ日本人には思いもつかない自信満々のラブソングですが、しかしとても楽しくて、数多くのミュージシャンが取り上げているスタンダードナンバーです。
 そしてこの曲の面白いところは、My baby don't care の後にさまざまな目的語を持ってきて、最後に My baby just cares for me で落とすという歌詞にあって、あれも違う、これも違うと勿体振るほど最後の「me」が強調される仕掛けになっているわけです。日本の話芸、落語の「落ち」と同じことですよね。

 前置きが長くなりましたが、今回は文法や歌詞のことについて語ろうと思っていたわけではなく、言葉遣いについての最近の私の思いを綴ろうと考えたのでした。「正しい日本語を使おう」はこのコーナーの一貫したテーマのようになってしまいましたが(笑)、私は最近、社長業という新たな仕事が増えたこともあって、人と話をする機会がものすごく増えました。そしてその経験を通じて、言葉の大切さをますます痛感する日々を送っているからです。
 初対面の人と挨拶をする、会社の担当者と会議をする、部下と一緒に酒を飲む、お客様に一日同行してゴルフ接待をするなど、人と人が会って一定の時間を過ごす上では、言うまでもなく会話がとても大切です。初対面の人とでも、うまい具合に話題が合って楽しい一時が過ごせると、わずか数時間しか話をしていないのに何だか十数年来の友人のような間柄になれることがあります。ところが最初でつまずいたり、相手の印象がよくなかったりすると、お互いに何となく苦手意識を持ったりして、ギクシャクとした関係が継続してしまうこともあります。
 会話というのは、本当に大切なコミュニケーションツールであり、また同時に自分の能力や出自を知られてしまうヒジョーに恐いものでもあります。冒頭の例で言うなら、話の順番や単語の並べ方を変えるだけで、相手の受ける印象は全く異なってしまう。人と話をするときは、そういうことを常に意識して、伝えたいことを正しく伝えられるように工夫する必要がある、ということです。

 当然のことですが、お話が面白い人というのは、その後ろに目には見えないさまざまな蓄えを有していますよね。いつも新しい情報を持っている。いつも何かを考えている。そういうたゆまぬ努力が、その場でたまたま飛び出した話題にセンシティブに反応し、場を盛り上げるというか、本人もそれを楽しむことになるわけです。
 新しい情報といっても、昨日のお笑い番組で芸人が○○と言った、なんていうレベルでは話になりません。やはりさまざまな人生経験、豊富な読書量、音楽や絵画などの芸術への熱い想い、スポーツへの打ち込みと鍛錬など、幅広い分野での経験と知識に裏打ちされて初めて、人の言葉には重みが増し、面白さが際だってくるものだと思います。

 また人を楽しませるためには、会話術といいますか、話題の起承転結を考えて「落ち」を作ることも大切ですね。必ずしも笑いを誘わなくてもいいけれど、結局何が言いたいのかよく分からない話に付き合わされるのは結構苦痛です。意識して訓練すれば徐々に出来るようになることですが、まず最初に言いたいことをイメージし、そこにたどり着くための肉付けや枕詞を瞬時にイメージして構成し、それをアドリブで持ち出せるようになれば天下一品でしょう。
 私は落語が大好きで、ありがたいことに最近はi-pod の podcast という無料で落語を楽しめる番組を利用して随分楽しませていただいていますが、よく出来た話というのは、もう一度聞いてみると、落ちに向かって実にうまい具合にいろいろな仕掛けが施されています。日常会話でこれを実現するのは至難の業ですが、それでも話し慣れた人、会話の上手な方のお話にはこれに相通じるものがあると思います。
 誰かと会話をして一定の時間を過ごすなら、できることなら楽しい空間を作りたいですよね。私は、会話の上手くない人を密かに「日本語が不自由な人」と呼んでいますが、そういう心当たりがある方は、古典落語をたくさん聞くのも楽しくていい勉強になるかもしれませんよ。

 会話をスムーズに進める上でさらにもう一つ大切な要素は、ボキャブラリーですね。先日もある営業マンが私の事務所に来ていろいろ話をしていきましたが、この人がどこで覚えてきたのか知らないけれど、「ザックリ」という変な言葉を連発するのには閉口しました。
 「先生、お忙しいと思いますので、とりあえずザックリとしたところをご説明させていただきたいのですが」に始まり、「先生、いかがですか?ザックリでいいんですがご感想を…」「ザックリ言うとこんな感じで」とまあ、会話の中で20回くらいはザックリザックリしていたでしょうか。あのなあ、はっきり言っておくけどなぁ、俺はザックリという言葉が特に嫌いなんだよ、ゴルフやらないヤツには分からないだろうけど!
 また、若い人の中には言葉をわざと汚く言い換える流行もありますね。「まぁそれでもいいっちゃーいいんだけど」???。何ですか、その「ちゃー」というのは。なぜ「いいと言えばいいんだけど」と言えないの?そういう言葉を毎日使っていると、知らず知らずのうちに品のなさが体に染みこんで、素敵な人からプロポーズされたときに「いいっちゃいいよ」なんて口走っちゃうよ、ほんとに。まあそれでもいいっちゃーいいんだけど…

 こういう、会話の技術に関することを考えていると、やはりプロの話しぶりというのは大変勉強になります。先ほどの古典落語もそうですが、先日ラジオを聞いていたら堺すすむさんという方の話があまりに面白いので、頭の中に一生懸命メモを取ってしまいました。
 堺さんは、ギターと歌がお上手な方で、おそらく「ギター漫談」というジャンルに入るんだろうと思いますが、最近は「なーんでかフラメンコ」という曲?がウケているようです。私が聞いたのもそれだったんですが、たとえばこんな感じ。

「あんパンとジャムパンと食パンが歩いてた」
「後ろからメロンパンが「おーい」と声をかけた」
「振り返ったのは食パン。なーんでか?」
「それはね、食パンには耳があるから」

 おもしろいでしょ? おもしろいよね! 小学生でも分かるこの明快さ!毒はないし、エロさもないし、実にシンプルでスマートでいいですねえ。ついでにもう一つご紹介しましょうか。人のネタをばらすのはよろしくありませんが、堺さんのホームページに掲載されているのですから問題ないでしょう。

「腱鞘炎がひどくなったので医者に行った」
「肘が痛いので、注射してくださいと言ったら「それはできねえなぁ」と言われた」
「なーんでか?」
「それはね、曲がり角は駐車禁止だから」 

 まあ、これはただの駄洒落で文字で読むと面白くも何ともないでしょうが、それでも堺さんのような話上手な人がやると思わず笑ってしまいます。私は公共の場でヘッドフォンつけて大笑いしてしまい、相当気まずい思いをしました。
 最近はテレビをつけてもろくな番組をやっていませんが、それだけにたまにこういう明るくて毒のない芸に出会うとうれしくなりますね。日常会話にもこういう洒脱さを取り入れて、難しい話も楽しくスイスイできたら本当に楽しいのにね。というわけで今月の一押しは、今ひとつアカデミズムには欠けますが、久し振りに大笑いしてしまった堺すすむさんの「なーんでかフラメンコ」でした。

 先日、家で食事をしていたら、娘からメールが来ました。そこには、何の前置きもなく次のように書かれています。

「問題:
『どんより』という言葉を使って簡潔な文章を作りなさい。
 例:今日は空がどんよりしている。」

 おお、あの読書嫌いの娘がついに国語の勉強に取りかかったかぁ。さすが我が娘だな、とうれしくなって画面の下の方を見たら、
「答え:→→→→うどんよりそばが好きです。」だって。

 お前、相変わらず面白いなぁ。獣医師なんか辞めて芸能界にデビューしちゃう?

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