須田邦裕の「今月の一押し!!」
2002.08.05  今回の一押しは「It's a wonderful world」だあ!
 MR.CHILDREN。ミスターチルドレン。ミスチル。言わずと知れた今の日本の音楽シーンを代表するバンドです。私、大好きなんですミスチルが。いい年をして。

 ところでこのような音楽のジャンルを何というのでしょうか。ニューミュージック?ジャパニーズポップス?amazon.co.jpでミスチルを検索すると、J-POPの中のロックに登録されていますので、ロックバンドと言えばいいのでしょうか。何か違う気がするけど。音楽評論家の伊藤強さんのHP見ましたが、よく分かりませんでした。

 年がばれてしまいますが、私の音楽体験を振り返ると、高校生時代はLed ZeppelinやGrand Funk Railroadなどのハードロックに明け暮れ、たまにビートルズやCCRなどで気分転換を図り、それに飽きると今度はジャズの世界にのめり込んでいきました。つまり基本的に横文字の世界だったわけですね。別に欧米崇拝主義だったわけじゃないんですが、当時の日本の音楽といえば水前寺清子と美空ひばりと村田秀雄と内山田弘と東京ロマンチカとピンクレディくらいしかなかったんですよ。頑張ってもチューリップとかぐや姫程度。仕方ないでしょ、ほんとうに。

 ところが大学生だったときに、ユーミンの「コバルトアワー」というアルバムを聴いて強い衝撃を受けました。なんというアーバンな、なんというしゃれた響き。メジャーセブンなんていうコードはそのとき初めて知りました。この辺りからですねえ、J-POPもいいなあと思うようになったのは。そしてサザンオールスターズの衝撃的なデビュー。ある日、国立市のとんかつ屋で夕飯を食べていたら、店の隅の高いところにあるテレビから何だか滅茶苦茶な日本語とものすごいエネルギーを持った音楽が流れてきて、しばらく箸を持ったまま画面をじっと見つめてしまいました。それが「勝手にシンドバッド」という曲だったんですねえ。すぐにレコード屋に行って「熱い胸さわぎ」というアルバムを買って来ました。そして何回聞いたことでしょうか。「別れ話は最後に」なんて力の抜けた、とってもいい曲です。今聞いても古さをまったく感じません。
 しかし。しかしです。確かに桑田さんは天才だと思う。私もずいぶんお世話になりました。でもどこかに土着の匂いを感じてしまうのは私だけ?よく言えばソウルフル。だけど日本語の発音をわざと崩す歌い方に代表されるあくの強さ。正直なところ、心の底からは好きになれないのです。私は。

 これに対して松任谷由実はいい。「14番目の月」「悲しいほどお天気」「パールピアス」などのアルバムは今でも無性に聴きたくなるときがあります。よく言われることですが、歌詞が素晴らしい。短いフレーズなのに、ある情景が鮮やかに頭の中に浮かんでくる。そして高度な音楽理論を駆使した(のかどうかは知りませんが)斬新なコード進行。美しいメロディ。情熱的な曲であっても、都会的でどこか醒めている。知的といったらちょっと言い過ぎでしょうか。そして私にとってのミスチルは、このユーミンのイメージの延長線上にあるのです。

 ミスチルというバンドの凄さは、アルバムを発表するたびに音楽性がどんどん高まっていく点にあるように思います。初期の作品は、それでも歌詞に韻を踏んだりメロディに卓越した才能を感じたりしますが、どちらかと言えばシンプルなラブソングが中心でした。それが「Discovery」あたりから急速にスケールが大きくなり、曲想は天才的になり、テーマも様々なジャンルに渡るようになる。桜井和寿という人の、多分ご本人も知らなかった才能が、学習と精神集中と訓練によって次々に花開いていく過程がまるで目に見えるように展開されていくのです。

 そしてアルバム「Q」で彼らの力は一つの頂点を迎えたように思います。私は、前作の「Q」があまりに素晴らしかったので、次の作品を聞くことに多少のためらいを感じていました。実際、今回の「It's a wonderful world」を一生懸命聞くようになったのは、アルバム発売後2ヶ月を過ぎてからです。しかし恐る恐る聞いていくうちに、徐々にうれしくなりました。私としては今でも「Q」の方が上だと思っていますが、それでもニューアルバムにも素晴らしい曲が目白押し。たとえばこんな歌詞はどうですか。
 「殺人現場にやじうま達がひまつぶしで群がる
  中高生達が携帯片手にカメラに向かってピースサインを送る
  犯人はともかくまずはお前らが死刑になりゃいいんだ
  でもこの後ニュースで中田のインタビューがあるから
  それ見てから考えるとしようか」(LOVEはじめました)
 テレビ時代の私たちは、チャンネルを切り替えるたびに無数の情報を手に入れ、瞬間的にある感情を抱き、そしてよく考えることなく、また次の情報に流されていきます。そしてその都度誰もがエゴイスティックな評論家になって「政治家のバカ野郎」などとつぶやいたりする。それは若者に限ったことではありません。そのような現代人に共通の一瞬を、見事に切り取って曲に仕立てる才能。すごいと思いませんか。

 またこんな曲もお勧めです。
 「大切にしなきゃならないものがこの世にはいっぱいあるという
  でもそれが君じゃないこと今日僕は気付いてしまった
  きっとウルトラマンのそれのように
  君の背中にもファスナーがついていて
  僕の手の届かない闇の中で
  違う顔を誰かに見せているんだろう
  そんなの知っている」(ファスナー)
 最近の若者は、人とのコミュニケーションを避けたがる傾向が日増しに強くなっているように思います。聞けばすぐに分かることでも、それを聞こうとしない。そして想像と思いこみの殻の中で悶々としている。そういう人をときどき見かけます。それが恋人同士であっても、相手を心の底からは信用できなかったりする。そんな微妙な人間関係がこの数行の歌詞から鮮やかに見えてきます。いやー素晴らしい。そんなわけで今月の一押しはミスターチルドレンの「It's a wonderful world」でした。損はさせません、是非一度おためし下され!
 
 

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