須田邦裕の「今月の一押し!!」
2003.08.19  今回の一押しは「アーチトップギター」だあ!

 「弘法筆を選ばず」という言葉があります。達人は、道具の善し悪しに関係なく物事を上手に処理することのたとえですよね。これって確かに一理ありますが、でも達人ほど道具にこだわる、という真理もあるようです。大工さんや料理人さんなど、道具で仕事をする人は皆自分の大切な武器をこまめに手入れしているのではないでしょうか。

 われわれ凡人だって、道具にはこだわっていますよ。またかよ、と言われそうですが、たとえばゴルフ。ルールでは何と14本ものクラブを使ってよいことになっています。そして新製品が発売されるたびに、もしかするとこれを買えば自分のスコアが劇的によくなるのではないかと夢想してしまう。だってCMにはうまいことが書いてあるんですよ、ほんとに。これについて語り出すとまた長くなるのですが、今回はやめておきましょう。なぜなら今お話ししたいのはゴルフではなくてギターなんです。

 私、現在のところギターには相当入れ込んでおります。もちろん練習は毎日しています。ギターを抱えると2時間くらいあっという間に過ぎてしまう。以前から標榜していた「税金に詳しいミュージシャン」を本気で実現しようと取り組んでおります。休みの日には、特に目的があるわけでもないのにあちこちの楽器店に何となく足を運んでしまう。そしていろいろと眺めているうちに、とんでもない、大変なことが分かってきました。 

 ギターに興味がない方からすれば、ギターはギターという一つの楽器に過ぎないでしょうね。でもそうではないのよ。ギターには実に色々な種類がある。たとえばこんな分類を頭に浮かべていただけるでしょうか。
@張ってある弦は?   aナイロン弦         bスチール弦
A音を出す仕組みは? aギター本体の反響で  bアンプで電気的に増幅して
Bボディの形状は?   a厚くて穴が空いている  b薄くて穴は空いていない
C弦の本数は?     a6本または7本       b12本
 @は、分かりやすく言えばクラシックギターとそれ以外を区別する基準です。ギターを近くで見ると、6本あるうちの細い方に白っぽい半透明のナイロン弦が張ってあるものと、ピカピカ光ったスチールの弦が張ってあるものとがあることが分かります。
 Aは、一般的にはエレキギターとそれ以外の区別をイメージするでしょう。そしてBはAと深い関係がありまして、自然のままで大きな音を出すためにはボディを大きくしてサウンドホールという穴を空けますが、アンプで増幅するならボディなんかなくてもよい。
 とまあ、大まかにいえばこのような分類になるわけですが、その分類をクロスオーバーする楽器も沢山あったりして実はそんなに単純なものでもないのですよ。

 たとえばナイロン弦が張ってあるギターのうち、マイク(正しくはピックアップ)が付いていないものをクラシックギター、付いているものをエレガットと呼びます。でもエレガットは、見た目には普通のクラシックギターとあまり変わりませんから、アンプにつなげなくても結構大きな音が出る。
 またスチール弦が張ってあるギターのうち、マイクが付いていないものはフォークギターまたはアコースティックギターと呼ばれます。本来は、マイクが付いていない即ち生の音だけで演奏するギターを総称してアコースティックギターと呼ぶはずですが、一般的にアコースティックというのは、クラシックギターを除外した概念のようです。その証拠にフォークギターにマイクを付けたものをエレアコと呼び、前出のエレガットと区別していますから。
 さらにマイク付きのギターについては、ボディの形状が大きくて中が空洞になっているものをフルアコースティック、薄くて反響しないものをソリッド、その中間的なものをセミアコースティックと呼びます。ソリッドギターの代表選手はいわゆるエレキギターですよね。ギンギンのハードロックで使われるやつ。それ自体で反響させる必要がないのですからボディの形も自由自在で、三角形にやたらとんがったヤツやまん丸のヤツなど、とてもおしゃれでにぎやかです。
 
 どうです。一口にギターと言ってもなかなか奥が深いでしょう?もう少し続けさせていただくと、上記のようなギターの種類は、演奏する音楽のジャンルによって使い分けられています。クラシック音楽にクラシックギターは当然のこととして、ボサノバならクラシックまたはエレガット、ロックならソリッド、ジャズならフルアコまたはセミアコといった具合。もちろんレッドツェッペリンの「天国への階段」の出だし部分のように、ハードロックでアコースティックを使うというような例外はいくらでもあるわけですが。
 さらにギターの構造にはいくつかのルールがあって、クラシックギターのネック(左手で押さえる棒状の部分)は幅がかなり太く、エレキギターのそれは細い。またエレクトリック系のギターはキュイーンというかなり高い音を駆使するために、高い音を出すネック部分までボディがえぐれている(エレキギターの多くが左右非対称な形をしているのはこのため)。アコースティックギターは、高価なものになると貝細工などの装飾が施されるが、クラシックギターはいくら高くてもそのようなおまけはない、などなど。

 いやー本当に、とんでもない、大変なことが分かってきました。何がって?買わなきゃならないギターが沢山あるということですよ。ねー西尾さん?世のギター好きのお父さん、ご家族の理解を得るためにはこのページをプリントアウトして何気なく食卓の上にでも置いておいたらいかがでしょう。少しは効果があると思うのですが。
 そういう私も、実は西尾さんという先輩にとんでもないお店を教えてもらってギター欲しい症候群が激しく発症しております。助けてー。それは渋谷にある「ウォーキン」というギターショップです(URLはhttp://www.walkin.co.jp/)。先ほどのギターの種類の続きですが、アーチトップとフラットトップという区別がありまして、前者はボディが微妙に膨らんでおり、後者は真っ平ら。ボディが膨らんでいるギターといえば、それはあなた、ジャズギターなのですよ。うー欲しいよー。手も足も出ないような高価な代物ばかりですが、見れば見るほど美しい。もう道具というより美術工芸品の領域ですね。そんなわけで今月の一押しは「アーチトップギター」でした。いやーそれにしても今月は、自分で自分を押しているだけだったかも。ははは。セルフサービスですんませーん。

 
 ↑欲しいのはこんな感じかなー。
 


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