須田邦裕の「今月の一押し!!」
2003.11.25  今回の一押しは「ボサノバ」だあ!

 ボサノバという音楽ジャンルをご存じですか。「イパネマの娘」、「波」、「ワンノートサンバ」などのヒット曲のタイトルをご覧になると、イメージが頭に浮かぶ方も多いのではないでしょうか。この音楽、ブラジルで生まれたことに起因するのだと思いますが、日本では夏の音楽として持てはやされているようです。
 独特のリズムと不協和音が生み出す都会的な感じが今はやりの癒し系という言葉にピッタリあてはまり、ファンも多いわけですが、私もご多分に漏れずボサノバが好きで、最近はギターの独奏や弾き語り曲のレパートリーを増やす努力をしています。そこで今回は、ボサノバについて少しお話ししましょう。

 ここからは受け売りですが、ボサノバという音楽は今を去ること50年近く前にブラジルで発明(?)されました。ボサノバのボサ(bossa)は「傾向」、ノバ(nova)は「新しい」という意味で、言ってみれば日本の「ニューミュージック」と同じような内容の言葉のようです。
 1950年代の後半頃に、アントニオ・カルロス・ジョビンという天才作曲家とジョアン・ジルベルトというこれまた素晴らしいギタリスト兼シンガーが出会い、ジョビンのイメージをジルベルトが具体化するという形で次々に素晴らしい曲が作られ、開花していったようです。
 ブラジルの音楽といえばサンバ。ボサノバは、このサンバをベースとして、それに高度な音楽的センスに裏付けられたアイデアを付け加えて作曲されています。ジョビン氏によれば、ボサノバはサンバ・ボサノバと呼ぶのが正しいのだそうであり、つまり、サンバの新しい傾向という意味なのです。そしてボサノバはジャズに、ジャズはボサノバにそれぞれ影響を与えあい、この二つの音楽ジャンルは非常に密接な関係となっていて、たとえばジャズマンはボサノバのスタンダードナンバーを頻繁に演奏しますし、ボサノバにはジャズで用いられるコード進行が多用されます。

 楽器を演奏される方ならお分かりだと思いますが、多くの場合において、楽譜には「コード」というAからGまでのアルファベットが記されています。Cならドの音をベースにしたドミソの和音、Fならファの音をベースにしたドミソの和音という具合で、これに短調ならマイナーという意味のm、半音下げるなら♭のマークがついたりしており、そのコードごとに決められた指の押さえ方を覚えれば、楽譜を見て曲が弾ける、という仕組みになっているわけです。
 初めてギターやピアノに触ったという方でも、2,3ヶ月も練習すれば一通りのコードが頭に浮かぶようになり、1曲くらいは弾き語りができるようになります。そして半年もすると、たとえばビートルズの「レットイットビー」やサザンの「いとしのエリー」くらいは人前でやれるようになって、ちょっと女の子にでも聞かせちゃおうかなーなんて思ったりするものなんですね。

 私もその程度の技術で無駄な時間を過ごしてしまい、ギターならまぁそこそこ弾けますよ、なんて思い上がった気持ちになっていたのですが、ボサノバの楽譜を初めて見たときは腰が抜けるほど驚いてしまいました。だって簡単なはずのギターコードに、何だか小さい字でいろいろな数字やアルファベットがついていて、しかもそんなコードばっかりで、しかもその数字を無視すると全然曲にならないし、要するにほとんど手も足も出ない状態だったからです。
 たとえば「ス・ワンダフル」という有名な曲がありますが、この曲の楽譜に書かれているコードは次のようなものです。
 E♭6  Gm7♭5  C7♭9  Fm7(11)  B♭7(13) 
 とまあ、こんな感じで、「神田川」が弾ける程度の力量ではどうにもならんのですわ、これが。

 楽器にご縁のない方には面白くも何ともない話で申し訳ないんですが、ついでですからもう一言追加しますと、和音のルールではドレミファソラシドの左から順番に1から8までの番号をつけ、たとえばCという和音ですと、ドとミとソの音を一緒に鳴らせばいいわけで、これを数字に表せば135ということになるわけです。

 そして人間の耳は、135というように一つおきの音を一緒に鳴らすと気持ちよく響くように感じますが、ドとレ(すなわち1と2)の音を一緒に鳴らすと音と音がぶつかり合って実に気持ち悪いことになります。これが「不協和音」というわけですが、不思議なことに135のドミソの和音に、1オクターブ上のレの音を一緒に弾くと、これが何故か都会的な素敵な響きになるんですね。そこで、この「1オクターブ上のレの音」を数字で表してみると、ドレミファソラシドの次のレですから、9番目ということになり、これをナインスと呼ぶのです。上の例にある「C7♭9」というコードはシーセブンフラットナインスと呼びますが、これはC7という和音に一オクターブ上のレの半音下の音を加えたものです。したがって11は1オクターブ上のファ、13は同じくラの音が加わるということを意味しているのですよ。ファっファっファっ。
 
 「なんのこっちゃ」っていう感じですか?私もかなり「なんのこっちゃ」だったんですよ。それがギターで実際に音を出そうとすると、ますますなんのこっちゃ度が増して、それまで覚えてきたコードの押さえ方なんてほとんど役に立ちません。ボサノバをやるにはこいつを克服しないとならないんですが、それだけに何とか一曲できるようになると、自分のギターが今までとは全然違う音を響かせるようになり、こりゃたまりませんということになってしまうのです。
 そんなわけで私は、さらにさらに、深く深く、この世界に埋没していくことになりそうです。というわけで今月の一押しは「ボサノバ」でした。これからますます寒くなりますけど、暖房で部屋をしっかり暖めて、皆さんもボッサでわいわいやってねー。


 


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