須田邦裕の「今月の一押し!!」
2002.10.12  今回の一押しは「シャトー・オーゾンヌ」だあ!
 秋ですねえ。天高く馬肥ゆる。芸術の。食欲の。いろいろな言い方がありますが、要するに秋という季節は、人間にとって何をするにもさわやかで気持ちのいい季節ということですよね。私も今月はゴルフに、コンサートに、飲み会にと相変わらずチョロチョロ動き回っておりまして、もうお話したいことは山のようにあるのですが、もったいないから全部は言いません、さようなら。じゃなくて、今回は食欲の秋にふさわしくお酒の話なんかを少ししてみようかなあと思います。

 お酒が弱い方には本当に申し訳ないのですが、私はこう見えても(って知らない人もいますが)お酒が大好きです。そしてお酒があってこその人生だなあと思ったりもしています。お酒を飲まないのは体調が悪いときに限っておりまして、一時は健康のためにたまには断酒しようなどと殊勝なことをしてみたのですが、途端に食欲が落ちて体調を崩してしまいました。そんなわけで、お医者さんには内緒ですが、量の多少はともかく飲まない日はまずありません。そして飲むものも、B型人間の見本のように、ビール、日本酒、ワイン、ウイスキー、焼酎、カクテル、まあ要するに全部ですね。何でもいい、というわけではないんですけれども。

 私が変わっているのか、それとも男という動物が色々理屈を言いたくなるように出来ているためなのか、私はどうせ飲むならストーリーがあるものに魅力を感じてしまいます。ビールなどは、一番麦汁だとかドライ製法だとか言われても、正直なところ旨いのは最初の一口だけで、後は殆ど水と同じ。何だかよく分かりません。焼酎も芋と麦の区別がつく程度で、そのまま飲めば確かに違いは感じますが、グレープフルーツなんかで割っちゃったら焼酎だかウォッカだかも定かでなくなってしまいます。
 ウイスキーだって、スコッチは「WHISKY」だけどバーボンは「WHISKEY」と書くんだよ。つまりEという字が入っているわけだな。これはイギリスからアメリカに移住した人たちが、トウモロコシを使って本国に負けないウィスキーを開発したので、そのプライドを込めて敢えて変えたんだぜい、くらいの能書きは言いますが、その先はちょっと危ない。そうなると残るものは。残るものはワインしかないじゃないですか。

 じゃーん。というわけでやっと本題にたどり着きました。実は私、ワインが結構好きなんですよ。私のワインとの出会いは、今を去ること10年ほど前、平沢さんという方がフランスに旅行されて「はい須田さん、お土産」とポンと渡された「シャトー・リシーヌ(Chateau Prieure-Lichine)」に始まります。なんで10年も前に飲んだワインを覚えているかって、それまで赤玉ポートワインしか飲んだことがなかった私には、衝撃的なおいしさだったのですよ。何というか、口に含んだらそのまますーっと消えてなくなってしまい、後には香りだけが残るような魔法の味。いつかは自分でこれを買えるようになりたいと思い、そのラベルを大切にとっておいたのです。

 そしてその後は、銀座のレストランでたまたま飲んだ「サヴィニー・レボーヌ(Savigny Les Beaune)」で白ワインのおいしさを知り、お友達の三神さんに何かとアドバイスを受け、徐々に経験を積んで色々なことが分かってきました。たとえばフランスワインには大きく分けて西にボルドー、東にブルゴーニュという産地があり、ボルドーは赤ワイン、ブルゴーニュは白ワインのよいものが多いということ。ボルドーのワインとブルゴーニュのワインとではボトルの形が違うということ。ワインは自然の産物なので、同じ農場(シャトー)の製品でも生産年によりその味と価格にかなりの開きがあるということ。その生産年のことを「ヴィンテージ」といい、ワイン購入時の大きな決定要素となり、最近では1982年、1986年、1990年、1995年辺りがグレートヴィンテージと呼ばれていること。などなどなど。
 どうです。これだけ理屈が詰まっていると、理屈好きの男達にはたまらない代物じゃあありませんか。しかもああだこうだと言うには、実際に飲んでみなければ始まりません。酒好きにとっては実に素晴らしい言い訳だあ。

 しかしです。時計のときにも書きましたが、ワインも高いものはものすごく高いという問題が厳然と立ちはだかります。ちょっと良さそうなものでもすぐに数千円、ボルドーの五大シャトーと呼ばれているものはヴィンテージの浅いものでも最低17,000円くらい、すごいのになると数十万円するものも結構あります。ワインは一度開封したら、基本的にその日のうちに飲みきるもの。次の日には味が落ちてしまいますから、ブランデーのようにちびちび楽しむものではありません。そう考えると一晩でウン万円を飲むなんて、ものすごく贅沢なものですよね。というわけで、恥ずかしながら私はまだ有名なシャトー・マルゴーも飲んだことがないんですよ。
 
 そんな中で私が一押しするとすれば、それは迷わずシャトー・ラトゥール(Chateau Latour)ですね。それも、セカンドラベルと呼ばれるちょっと安めのやつでレフォール(Le Forts de Latour)というラベルのついた一本。ヴィンテージにもよりますが、5,000円程度で手に入ります。決して安いものではありませんが、濃いルビー色、強い香り、生産年にほとんど左右されない素晴らしい味。色々試しましたが、安心して楽しめます。
 でもね。実はそれ以外にとっておきの一本があるんですよ。それは友人の近藤君がハネムーンにフランスに行ったときに買ってきてくれたシャトー・オーゾンヌ(Chateau Ausone)。しかも1986年です。調べたところでは、ウン万円はするというすごいヤツ。私はこの一本のためにワインセラーまで買ってしまいました。飲み頃はまだ数年先とのことで、オーゾンヌちゃんはお顔にカビを生やしつつ今夜も我が家のセラーでぐっすり眠っています。そんなわけで今月の一押しは「シャトー・オーゾンヌ(Chateau Ausone)」でした。でも一押ししちゃっていいのかなあ。だってまだ飲んだことないんだよ…

    


 


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