須田邦裕の「今月の一押し!!」
2004.07.18  今回の一押しは「北大古河講堂」だあ!

 7月の東京はすさまじい暑さです。最高気温が35度に達する日が続き、大して雨も降らないうちにいつの間にか梅雨も明けてしまいました。こんな恐ろしい気候の中を、ダークスーツ着てネクタイ締めてカバン持って歩くなんて、もうほとんど自殺行為に近いですね。あー、イヤだイヤだ。ほんとにイヤだ。

 今年は「イヤだ度」が特に高いような気がします。平年のイヤだ度が68度くらいだとすると、今年は87度は間違いなく超えてる。なぜそんなに高く感じるかというと…?す、済まぬ。申し訳ない。実は涼しいところに行って来てしまったからなのであります。というわけで今回は、列島縦断一人旅の模様を実況中継させていただきましょう。

 今回の旅は、仕事で大阪に行くところからスタートしました。これはほんとです。ちゃんと真面目な会議に出席して、発言までしてしまいました。大阪も暑くて、ぼーっとして手を挙げたら当てられちゃったんで、やむなくモソモソとしゃべってしまいました。しかし会議終了直後から旅人に変身し、まずは京都の街を散策しました。

 私、この季節に京都を歩くのがここ数年の恒例行事になっているのですが、今回は嵯峨野方面に足を伸ばしてみることとし、盆地の強烈な日照りの中を黙々と歩き続けました。まずは桂川にかかるかの有名な渡月橋。渡月橋の写真はあまりに陳腐なので、橋よりも川上から遠くを眺めるワンショット。向こうに見える甍の群は天竜寺です。いやー、暑い暑いと大汗かきながらその天竜寺境内を大股歩きして外に出たら、突然すごーい竹林になりました。風がサワサワと吹いていい感じ。その後は嵯峨野の小さな寺々。常寂光寺、落柿舎、化野念仏寺などです。なんとなく寂しくて、何回訪れても旅情をかき立てられる素晴らしいところです。

         
   桂川から天竜寺を望む         嵯峨野の竹林            あだしの念仏寺

 さてその後は、ちょー有名な金閣寺。近かったので、前回のこのコーナーのお話にちなんで北野天満宮にもお参りしてきました。タクシーの運転手さんに聞いたら「わしら金閣なんて行ったことありまへんがなー」と仰ってましたが、僕らが東京タワーに行かないのと多分同じですね。キンピカを批判する人もいますが、これだけ美しい建物が風雨に負けず屋外に存在している現実はやはり凄いと言わざるを得ない。平泉中尊寺の金色堂も美しかったですが、あちらは覆い堂にすっぽり覆われているんですから。
 私も以前はくすんだ仏像などを有り難がって鑑賞していましたが、色ははげ落ち、線香や蝋燭の煙にすすけたその姿は、「変わり果てた」と言えなくもない。キトラ古墳の壁画がそうであるように、昔の人は極彩色を楽しんでいたに違いないわけで、それから思えばキンピカの金閣で文句あるか、と言ってもいいのではないでしょうか。

          
    落柿舎                 金閣寺                北野天満宮

 それにしても京都も暑い。一日歩き回って、へとへとになりましたが、そこでくじけず今度は夕涼みに出かけました。四条河原町から祇園の町並みです。いやー、京都らしいどすえ。地元の人はこんな言い方をするのでしょうか。全然自信ありません。
 写真の石畳の道は、花見小路というところで、舞妓さんがいそうでいない。出そうで出ない。二往復もしてしまいましたが、空振りに終わりました。

         
    鴨川のほとり              花見小路

 例年なら、こうして京都の街を満喫し、八つ橋などを買い求めて、おみやげの紙袋とともに新幹線で東京に運ばれていくのですが、今年は一味違います。な、なんと、関西空港からジャンボジェットで一路札幌へ。す、すごい。私、今まで生きてきて、羽田や成田を出発点または目的地とする以外に飛行機に乗ったことがないような気がする。トラベラーだ、ツーリストだ。え?たいしたことない?いいでしょ、ほっといて。

 さてさて。関西空港の近代的な設備に驚く間もなく、飛行機はあっという間に千歳に着いてしまいました。気温の変化とともに文体も変わります。みなさん。北海道はいいところでございますよ。涼しくて、広々としていて。東京とか大阪とか、蒸し暑くてどこに行っても人混みだらけの街とは、何というか品格が違うのでございます。
 と言いたくなるくらい、札幌の街は上品に感じました。富良野に足を伸ばしましたが、ラベンダーはほぼ満開状態で、どこからともなくいい香りが漂い、ラベンダーにポピーにひまわりにと様々な花が咲き競い、楽園のような状態です。天気も良く、遠くに望む十勝岳連峰も大変美しく見えました。どうです、きれいでしょう?

     
    富良野のラベンダー畑         同じくひまわり畑

 つづいて北海道大学。話は突然変わりますが、清水敦(しみずあつし)という版画家をご存じですか。私、結構好きで、確か初めて手に入れた作品はパンジーの花だったように記憶していますが、多色刷りの銅版画の作品がメインで、サイズは小さいですが暖かみのある美しい作品を作る方です。その清水さんの作品に「北大古河講堂」というのがあり、私も気に入って一枚コレクションしていますが、今回、ようやく現地を訪れることができました。北大の正面入り口から入って比較的近いところにその建物はありました。早速絵の構図に近いと思われるところから写真を撮りましたので、写真と版画を並べてご覧に入れましょう。

     
    北大古河講堂         古河講堂をモチーフにした清水敦の版画

 いかがですか?似てる?あなた、そういう当たり前の感想を言わないように。
 版画の方は、樹木の色づき具合から見て晩秋という感じですが、それにしても現実の写真と比べると光線に暖かみを感じます。いい作品ですよね。現実の北大も大変美しいところでしたが、そこを去った後に心に浮かんでくる印象は、やはり清水さんの作品の方でした。

 というわけで、お話はいくらでも続けられるのですが、この辺りで一区切りとさせていただきましょう。さて今回はいろいろなことがあり過ぎて一押しを決めるのは難しいのですが、私にとってようやく実現できた現地確認ということで、今月の一押しは「北大古河講堂」でした。現物も清水作品もともに捨てがたいですぞ。

 あ、大事なこと言うの忘れてましたが、北海道では車を駐車させるときは屋根に犬を乗せておくのがルールになっています。そんな馬鹿な?いや、ほんとですから。ほら証拠。

 
  不思議な光景

 ね?びっくりした?私もビックリしたのよ。しばらく見てたけど、本物の犬なんだなあ、これが。一体どういうことなんだろ…

 


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