須田邦裕の「今月の一押し!!」
2004.03.19  今回の一押しは「一日一善」だあ!

 ようやく春がやってきました。
 毎年のことですが、年末調整に始まり確定申告が終わるまで、会計業界の冬は長くて辛い日々の連続です。それだけに、ポカポカとした暖かい日を迎えるとうれしさ倍増。風のにおい、土のにおい、花のにおいをかぐ度に、生きている喜びに満ちあふれてしまう。私は鳥か蝶かたんぽぽか。鳥インフルエンザにかかるのはいやだけど、どこかに飛んでいってしまいたいー、という感じですね。

 確定申告が終わったらどこへ行くか。行きたいところはいろいろあるのですが、私の場合、まずは迷わず楽器店に足を運びます。数多くのギターが陳列されている店内に足を踏み入れると、その空間は新しい楽器の香りに満たされていて既に別世界。お茶の水にはショップがたくさんありますが、クロサワ楽器のDr.サウンドを除いてはどちらかというとガチャガチャしたうるさいお店が多い。それに比べると新宿の石橋楽器店やロックイン、渋谷のウォーキンなどは、店内も広くて静かに試奏できるようです。特に石橋楽器店の4Fは好きだなあ。石井さん、いつもお世話になってます(笑)。

 そう言えば想い出した、ということで話は突然変わりますが、今回は先日その新宿で見かけたちょっとショッキングな光景についてお話ししてみたいと思います。

 その日も私は、石橋楽器店に向かうべく駅の地下街を一人でぽつぽつと歩いておりました。ふと目を上げると、向こうから浮浪者とおぼしき男が通路の左端を一人よろよろと歩いてくる。そしてその後方右側からは、メキシコ系あるいはプエルトリコ系の若者が3人並んでこちらに向かっています。ちょうど角を曲がったところだったので、そこには私と、一人の浮浪者と、3人の外国人しかいません。ちょっと緊張する光景だと思いませんか?

 新宿あたりではよくある風景といえば確かにそうなのですが、私はそのとき、向かい来る4人の男たちとどのようにすれ違ったら「安全か」をとっさに考えていました。すると右側から来る3人の外国人集団の向かって左端の男が、歩きながら突然ポケットに手を入れて何かをまさぐったのです。映画のワンシーンなら、その次の瞬間にポケットから出した男の手には拳銃が握られていて、主人公の私はとっさに横にジャンプし、大音響とともに男の拳銃から発射された弾丸は浮浪者の左肩を貫通して…なんて感じなんでしょうが、現実は全く違うものでした。

 男性がポケットから出したものは、なんと小銭だったのです。いくらだったのかは知る由もありませんが、その若者は追い越しざまに何か声をかけて、その小銭を浮浪者に恵んでやったのです。浮浪者は「おーありがとー!」と大声を上げました。そしてその3人は、後ろを振り返ることもなく、浮浪者に手を振りながら何もなかったかのように談笑しながら私の横をすり抜けていきました。 

 私、この一瞬の出来事にかなり驚きました。直前まで私が瞬間的に勝手に思い描いていたダーティなイメージ。そしてそれとはまったく正反対の驚くような若者の行為。何か目的があるわけでもない。いい格好をしようとしたわけでもない。本当に自然に、失礼ながらそれほど裕福とも思えない若者が、彼にとっては異国の地で、見ず知らずのどちらかといえば近寄りたくないような浮浪者に「喜捨」をしている。どんな教育、文化、人生観が彼にそのような行動を取らせるのでしょうか。少なくとも私には、そんな行動は思いも及ばない。それまでの緊張感が解け、急にハッピーな気持ちになりました。そして「すごい奴だなあ」と感心せずにはいられませんでした。 

 自らを振り返れば、我が人生観は「自分のために真面目に生きれば、結果として社会の役に立つ」。オンビジネスでは、自分の仕事を誠実に一生懸命やれば必ず誰かの役に立っているわけで、仕事上で感謝されることがあればすなわち世の中に貢献していることになる、と本気で思っています。
 しかしそこからは、喜捨の精神が必ずしも生まれてこないのも事実。もっと積極的にボランタリーな行動を取らなければいけないのかもしれません。「一日一善」。よく耳にする言葉ですが、なかなかどうして実行に移すのは難しい。

 今こうして書いていても、どこまで実現できるかはとても不安です。でもあの若者のすがすがしい行動をお手本にして、日本が少しでも住みやすい国になるように、努力してみようかなと思っております。そんなわけで今月の一押しは「一日一善」でした。そういえば関係ないけど、事務所の○君が最近つぶやいていた言葉は「俺って一日一ミスだなぁ」だったような…。

 


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