須田邦裕の「今月の一押し!!」
2003.03.27  今回の一押しは「かねでん」だあ!
 確定申告の季節が終わりました。お陰様で今年も色々な方と出会うことができ、また渡り鳥のように年に一度忘れずにお越し頂く方々と再会できて、忙しいながらも楽しい一時を過ごすことができました。なーんて冷静に言ってみたものの、私、結構疲れちゃったんです。人間やっぱり休息は必要ですね。歳のせいもあるのでしょうが、申告が終わってからしばらくは体がだるく、何をする気もおきない日々が続いておりました。

 ところが先日、関与先の会社の社長さんからうれしいお誘いがかかったのです。名付けて「富山に旨い魚を食べに行こうツアー」。羽田から午後の便で富山に行って、温泉入って刺身を食ってと、期待に胸をパンパンに膨らませて羽田空港にすっ飛んで参りました。ところが。ところがです。その日は朝から全日空のコンピュータシステムがダウンしており、出発ロビーはこれでもかというくらいの大混雑。やむを得ず空港内のレストランで酒盛りをして待つこと数時間、いい加減にしろよとつぶやきつつ何度目かの電光掲示板確認にいった私の目に飛び込んできたのは「富山行き欠航」の赤い文字。
 がーん。がっくし。そりゃないだろ。今まで休日返上でずーーーーーーーーっと働いてきたんだよ。俺が何を悪いことしたって言うの。お願いだからさ。連れてってよ。ぶつぶつぶつぶつ。

 しかしいくら文句を言ってもどうなるものでもありません。そこは冷静な大人軍団、すぐに気持ちを切り替えて家に帰りました。では収まりません。そうじゃなくてそれから急遽東京駅に向かい、新幹線に乗り込んで、越後湯沢経由でぐいぐいと富山に向かったのであります。そして夜の10時半に富山到着、それから旨いさかなを求めて市内を徘徊し、ようやく寿司屋で極上の刺身をいただき、夜中の2時半まで騒いでしまいました。いやー楽しかったぁ、そしておいしかったぁ。
 
 翌日は温泉旅館でのんびりさせてもらいましたが、一日滞在して、旅館業って大変だなとつくづく思いました。お金を沢山かけて立派な建物を造っても、減価償却資産というくらいで、ビルはどんどん古くなっていく。そのうち隣に立派なホテルがどーんとオープンしたりして、薄情なお客さんはみんなそっちに流れていき、借金を返し終わるか終わらないうちにまた改装や増築が必要になる。移り気な消費者の歓心を買うために、設備投資の追いかけっこになってしまうのではないでしょうか。私も消費者の一人として、やっぱ新しい方がいいなーと思ってしまいますもの。
 でも今回の旅館は、料金が高いわけでも設備が豪華絢爛というわけでもなかったのですが、非常に満足度が高かった。その理由を振り返ってみると、@仲居さんが気さくで明るい人だった、A料理の出具合が早すぎずゆっくり食事できた、B閑散期なのか大浴場が貸し切り状態で殿様気分、C建物が海辺にあり景色抜群、と次々に浮かんできます。そしてそこに共通するものは、ほとんどがソフトウェアというか人的な要素に基づくものです。決して設備投資の大きさには比例していません。
 過ぎ去れば跡形もなく消え去ってしまう空間を、さらっと自然に提供する。サービス業って本当に難しいものですね。

 思うに、商売には顧客を満足させようとすればするほど深みにはまっていくというジレンマがあるように思います。安売りをすればもっと安くしろとお客はいう。いい商品を提供すればもっといいものを出せとお客はいう。人間の欲望にはきりがありませんから、買う方も売る方も止めどもなくエスカレートし、終いには何のためにやっているんだか分からないような状況も数多く見受けます。
 それなら最初から上限を設けるというのも一つの手です。すべてのお客を相手にしようとするから無理が出る。それよりは「うちができるのはこれだけ。よかったらどうぞ」というスタンスの方がビジネスにゆとりができ、特定の客層をしっかりつかんで結局は繁盛しているケースが多いのではないでしょうか。

 私の事務所の近くにもそんなお店がいくつかあります。その中でも最高に素晴らしいのが「金田」さん。「かねだ」ではなく「かねでん」と読ませるのですが、大雑把に分類すると居酒屋です。腕の確かな主人が出す料理はとっても工夫されていて、何を食べても美味でついついお酒が進む。夜の部も大変結構なのですが、私がさらにお薦めしたいのは昼の部。うまいでっせー。
 何と言ってもすごいのは一日一品の単品メニューであること。たとえばある日のメニューは「金目鯛の煮付け+キムチうどん+じゃこサラダ」。これ一品で勝負します。メニューは毎日変わりますが、料金は税込み千円で統一。とっても分かりやすい。夏目漱石さん一枚握りしめて入っていけば、一言も口をきかなくてもうまい飯がざざっと並ぶ仕組みです。ランチに千円は決して安くないと思いますが、お客さんもよく味を知っていて結構繁盛している。少し遅い時間に行くと「仕度中」の看板になってしまうくらいです。昼の客がきっと夜のリピーターとなり、夜の客も昼にときどき顔を出しているに違いない。実に上手だなあと思います。そんなわけで今月の一押しは「かねでん」でした。場所はJR三鷹駅を北口に出て税務署方向に歩き始めた最初の信号を右に入ったところ。日本酒もうまいよー。

 



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