須田邦裕の「今月の一押し!!」
2002.03.18  今回の一押しは「迎えに来た光」〔by利渉重雄)だあ!
  少し時間が空いてしまいました。でもね、毎年この時期は仕方がないんですよ。何と言っても年に一度の確定申告ですから。あと何回やったら楽になれるというか、お払い箱になるというか、成仏できるというか、毎年そんなことを考えながら嵐が去るのをひたすら待ち続けているのですが、よくしたもので3月になって街に沈丁花の花の香りが漂い始める頃になると、いつの間にか終わってる。「沈丁花春の月夜となりにけり」。よーし、長い冬が終わったぞー。4月は暇だ、ゴルフだ、飲み会だ、美術館だ、コンサートだ、旅行だーーー。というわけにいくのでしょうか。よくわかりません。

 でも心がウキウキしてくるのは事実。私は昔から寒いのが嫌いで、好きなゴルフも冬はやりません。人には忙しいからとか何とか言ってますが、本当は寒い朝に布団から出るのが凄く苦痛なんです。でもこれからの季節は違うぞ、体を鍛え直すぞ、と結構燃えています。
 さて前回は、あら恥ずかしやラッセンの絵なんかをご紹介してしまいましたが、今回は引き続き私の数少ない絵画コレクションをご紹介してみたいと思います。今回はズバリ、利渉重雄氏です。変わった名字ですよね。りしょうと読むそうですが、一体ご先祖はどこの出身の人なんでしょうか。よく知りません。私はこの人の作品を上野の美術展で偶然見ました。今を去ること6年前、東京都美術館で開催された第64回版画展というのを見に行ったわけです。因みに一人で行きました。別に関係ないですか。

 そこでは日本版画協会の会員・準会員の作品がずらりと展示されており、池田満寿夫氏を始めとする著名な作家の作品が沢山楽しめたのですが、その中にちょっと変わった作品がありました。一見するとスピルバーグの映画の世界みたいな、SFチックで、しかも細部に至るまで精密で、「実在する架空の世界」みたいなとても不思議で心に残る版画でした。それが利渉重雄氏の「方舟の巡航」という作品で、私の好みにピッタリ合ってしまったのですね。

 それからいろいろな本で調べていったら、この人の作品を取り扱う画廊が中目黒の駅前にあることが分かり、それまで中目黒なんて一度も降りたことがなかったのですが、ある日意を決して(それほど大袈裟なものでもありませんが)その画廊に行ってみたのです。そうしたら何と、利渉さんの作品がウジャウジャ出てくるじゃあありませんか。うわーすげーこんなのもあるんだー!なんて親切なお姉さんが笑顔でいるのをいいことに何枚も見せてもらい、その中から気に入った一枚をシートで勢いで買ってしまいました。数万円でした。数十万円ではありませんでした。美術館に展示されている作品が、手に届く値段で意外に簡単に手に入るんだなあ、ということをこのとき初めて知りました。結構うれしくなりました。

 それから、その足で地元の額縁屋さんに行って、自慢げにこの作品を広げて「これに合う額縁を作ってください」なんて、ちょっと鷹揚な態度で言っちゃったりして。いやー、参った参った。何が?何がでしょう。確定申告終わってうれしいんだから、許して。

 その後も利渉氏の作品はときどき見ています。コレクションも3,4枚になりました。今回はその中から「迎えに来た光」という作品をご紹介します。小さい写真だと分かりづらいですが、現物はすごく緻密で緊張感のあるいい作品です。とても重い石造りの筒が、ふんわりと宙に浮かんでいます。それが何を意味するのか、そんな細かいことを気にするなと言われそうなくらい、ゆったりとした悠久の時の流れを感じさせます。この人の作品にはカラーもありますが、モノクロが圧倒的にいい。光というものを感じさせてくれる。そんなわけで今月の一押しは、「迎えに来た光(by 利渉重雄)」でした。事務所に現物あるから、一度見に来てねー。 

    

  戻る