須田邦裕の「今月の一押し!!」
2001.11.18  今月の一押しは「ニールス・ペデルセン」だあ!
 秋本番となって参りました。季節の感じ方って人それぞれですが、皆さんはどんなときに秋を感じますか。
 私は、正直なところ、寒い季節が苦手です。したがって冬に向かうことを実感させられる秋は、何だか寂しく悲しい気持ちが先行してしまって、あまり好きではありません。確かにゴルフ場などで樹々が色づく景色を眺めていると、美しいとは思いますが、それより先に木枯らしを連想してしまうんですねぇ。どうもいけません。

 しかし芸術の秋という言葉もあります。蒸し暑い夏には面倒くさい音楽を聴く気にはなりませんが、涼しくなってくると、クラシックやジャズが聴きたくなる。秋の夜長に虫の音を感じながら、部屋の中には静かにジャズが流れる、なんて素敵ですね。実際にはそんな余裕はなかなかありませんが。
 そんなわけで、今回はジャズのお話を少し。

 唐突ですが、ジャズとゴルフには共通点があります(あくまで体験に基づく私的な見解ですが)。それは、敷居が高くて取っつきにくく、しかもいつまで経ってもそのおもしろさが実感できなくて「何でこんなものに時間と金を使っているんだ」と自らに腹を立て、そのくせなかなかやめられず、気がつけばいつの間にかとりこになっている、という麻薬のようなところです。わかるかなあ?
 実際、私はジャズという音楽がどんなものなのか最初はさっぱり分からず、学生時代には手当たり次第にLPレコードを買い漁っておりました。とにかく何がいいんだか全然分からないので、聞いたことのある演奏者の名前を頼りに、適当に買ってきては聞くのですが、最初のうちは殆ど「うわ、何だこれ?おもしろくねぇー。はずれだ」ばっかりでした。滅茶苦茶やってんじゃねえの?って皆さんも感じたことありますよねぇ、きっと。メロディも何もないような殆ど雑音みたいなのが10分以上も続くのがあるかと思えば、またえらくクラシックな4ビートの曲があったりする。結構挫折しかかりましたね。それでもレコードは100枚以上は買ったでしょうか。

 ところが、ところがです。あるときノーマン・グランツ・ジャムセッションというのをたまたま聞いたのですよ。そして、しびれてしまいました。ノーマン・グランツという人は有名な音楽プロデューサーで、数多くの名盤を制作していますが、そんな中で彼の好みに合う人を何人か集めてはセッションをやらせるシリーズがありました。その中の一枚を偶然聞いたわけですが、いやー、かっこいい。曲は確か"In a mellow tone"だったと思いますが、延々と繰り広げられるアドリブプレイが本当にいかしてる。時間をかけて作曲しても、こんなスリリングなフレーズは作れないんじゃないかと思うような旋律が、次々に出てくるんですね。即興演奏の凄さをそのとき初めて実感しました。そして、ジャズってすごくおもしろい音楽なんだということが、ようやく分かってきたわけです。たぶん1年以上はかかっていたでしょうね。

 そしてそれから色々聞きまくりました。好きなプレイヤーは、トランペットのアート・ファーマー、アルトサックスのアート・ペッパー、テナー・サックスではスタン・ゲッツにズート・シムズ、ピアニストではトミー・フラナガンやハービー・ハンコックなど、枚挙にいとまがありません。その中から1枚を選ぶというのは至難の業ですが、あの頃のことを思い出すと、なぜかニールス・ペデルセンとサム・ジョーンズという二人のベーシストが共演しているその名も「ダブル・ベース」というアルバムが鮮烈に頭に浮かびます。

 ウッド・ベーシスト二人の共演。最近ではいかりや長介さんがかっこよく弾いているCMがありましたが、それをさらにかっこよくしたような演奏です。またジャケットがいいんだなあ。確かブルーグリーン系の地に、二人のベーシストがヘッドフォンをして真剣な眼差しをこちらに向けているモノクロの写真がおかれていたように記憶しています。何というか知的で静かな情熱を燃やしている感じ。いいですよぉ。
 そんなわけで私の今月の一押しはニールスペデルセンの「ダブル・ベース」でした。ジャンルは変わっても古いなぁ… 

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