須田邦裕の「今月の一押し!!」
2003.06.15  今回の一押しは「教えを請う」だあ!

 男という動物はプライドの固まりで、人に頭を下げるのを苦手とする人がかなり多いように思います。イメージ的に言えば、メスは巣作りや子育てなのに対して、オスは狩猟とか闘争ということになるわけで、リゲイン飲んで24時間戦うことがカッコイイと思ってしまう。だから初対面の人同士でも「何だお前は」「何だとは何だ」「何だとは何だとは何だ」みたいな雰囲気になることがよくあるようです。

 私は、昔から人前で闘争心をむき出しにするということはあまりありませんけれども、しかし人に頭を下げるのはかなり嫌いな方でした(過去形ですよ。ここが肝心)。だから人にものを頼んだり、何かを教わったりすることは極力避け、何でも独学で自分で解決することを人生哲学として今まで生きてきてしまったのです(この後悔の感じ。とても大切です)。まあ自分で言うのも何ですが、そこそこ器用な方なので、一通りのことを適当にやっている分にはそれで困ったことはなかったわけですね(なぜかここも過去形。段々雰囲気が出てきました)。

 ところが。その考えはゴルフで完全に行き詰まりました。生来体は小さく体力に自信はありませんから、当然の結果としてスポーツは苦手。だからボールが人より飛ばないのは最初からあきらめています。しかしゴルフ場に行くと失礼ながら「え、あんなおじいちゃんが?」と思うような人が涼しい顔してスイスイやってるじゃありませんか。こっちの方が若いんだからと思うと余計に力んでますます当たらなくなる。
 そんな悲しい思いを繰り返し、新井さんや岩崎さんにぼったくられて、ついに私は決心をしたのです。「習ってみよう」と。

 決心をしたからには早くスクールに行けばいいのですが、永年育てに育て上げたプライドの鎧が素直な私の心の邪魔をする。ゴルフスクールの入り口の前を、檻の中のゴリラみたいに何回となく行ったり来たりしてしまいました。「入ろかやめよか考えチュー」ってヤツですね。そして迷いに迷って、悩みに悩んで、ついに決心して、ある日「エイヤッ」と入り口を跨いでしまったのです。
 そしたらあなた、なんでこんなことで迷っていたの?と馬鹿馬鹿しくなるくらい素晴らしい先生に巡り会ってしまいましたのですよ、私めは。
 
 千葉さんというお名前のその先生は、まずなかなかの色男。そして若いけれども何というかどっしりとしていて頼りがいがありそうな感じ。決して媚びることのない、でも威張る感じでもない優しい笑顔で私にこう尋ねられました。
 「須田さんはどんなゴルフをしたいですか?」
 学校を卒業して以来、お金を払って人に何かを教わったことのない私はドギマギしながらこう答えてしまいました。「どんなゴルフって、いやー別にプロを目指そうというわけではないので、まあ、初対面の方と回っても迷惑をかけない程度になれればと思うんですが。そうですね、できれば90を切れるくらいにはなりたいですが。」
 そうしたら何と、その先生は先ほどのスマイルは変えず、でも目の奥に星飛雄馬みたいな炎を輝かせながら「失礼ですが、その考えは間違っていると思います」と仰いました。「間違っている!?」「俺は間違っているのか!」「ガーン!」「★◎※♪◯¢@♂?」心は千々に乱れます。でも先生は決して私を否定したわけではないのです。
 「いいですか須田さん。90で回りたいという目標を立てれば、その結果はせいぜい100。80で回りたいという目標を立ててやっと90です。目標は高く持たなければいけない。是非シングルになるつもりで頑張って下さい。」
 いいこと言うなあ。泣かせるなあ。オヤジ殺し。私は恥ずかしながら、いい年をしてこの言葉に鳥肌を立ててしまいました。「センセー、抱き締めてー!」みたいな感じ。

 こうして私は、お金を払って人にものを教わる喜びを覚えてしまったのであります。それから約2年ほどの間、私はこの先生の下で自分を裸にし、それまで自己流で滅茶苦茶だったフォームを少しずつ直してもらいました。100を切れなかったスコアも80台の前半まで伸ばすことができました。自分一人ではかなりの回り道をすることが、その道の先達の力をお借りすればもしかするとかなり短縮できるかもしれない。頭を下げる、教えを請うということは、短い自分の人生を効率的に生きるのにかくも大切な手段だったのです。
 そんなわけで今月の一押しは「教えを請う」でした。人生を変えたいあなた、ちっぽけなプライドはかなぐり捨てて早く楽になった方がいいですよ。

 でも最後に告白しますが、私、このスクールに現在は通っていません。決して先生を嫌いになったわけでも喧嘩したわけでもないんですが。何というか、ゴルフってすごーく難しいんですね。やればやるほど、そして考えれば考えるほど自分の非力さを知ることになる。やはり生来のスポーツ苦手意識がどこかに潜んでいて、「お前には無理だよ」と囁かれているような気がします。スコアはまた元に戻ってしまいましたが、でもどうにか楽しむ程度にはなれたので、今は練習もせずコースに出ることのみを楽しんでいます。
 なんか最後にしぼんだ感じですか?そんなことはないんですよ。そんな程度で終わる俺じゃあねえんだ。というわけで、続きは来月の一押しのこころだぁー。


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