須田邦裕の「今月の一押し!!」
2004.02.22  今回の一押しは「ポケットスタジオファイブ」だあ!

 突然ですが、これは何でしょう?解答は最後に。

 

 さて、こういう話をするとじじい扱いされそうでイヤですが、私が幼少期を過ごした江戸時代には電卓というものはありませんでした。足し算も引き算もかけ算もわり算も、みんなそろばんでやっていました。それが普通だったのです。
 コピー機というのもなかったですね。小学校では、薄いパラピン紙みたいな用紙に鉄筆でガリガリと字や絵を描き、これを回転式の印刷機にかけてわら半紙に印刷して、学級新聞なるものを作っていました。出来上がる頃には手や服がインクで真っ黒。湿式の通称「青焼き」というコピー機が登場したのは、高校生になった頃だったような気がします。

 コンビニなんてもちろんありません。宅急便もなかった。荷物を送るといえば、国鉄(現JR)の駅まで布団袋で荷造りをした大きな包みを一生懸命運んだものです。カップラーメン?ある訳ないでしょ。初めてカップラーメンが登場した頃、家族みんなが見ている前でカップに熱湯を注いだら、熱でカップが溶けだして中身がテーブルに散乱し、大騒ぎになったことがあります。そんな不良品が沢山あったのです。

 家にはクーラーなんてありません。涼しいのは銀行だけ。もちろん車にもついていませんから、夏の運転は地獄の難行です。いま、エアコンのない車なんて乗れないでしょ?携帯電話?ははは、笑っちゃうぜ。当時は彼女を映画にでも誘おうと思っても、相手の家に電話すると大概恐いオトーサンが出てきて「おまえ誰?」みたいに言われる。結構ドキドキしました。カラオケもない。ファミレスもない。グレープフルーツなんて現物を見るまではブドウのことだと思ってました。一体どうやって暮らしていたんでしょうか。

 このように振り返ると、今の私たちの生活はここ20年ほどの間にものすごく大きく変化したことが分かります。その過程においては毎年のように新しいものが登場し、日本中がワクワクしていました。それに比べると、何か最近は閉塞感におおわれているなあ。みんな、あの頃はよかったよね。それじゃまた来月。

 いやそうじゃなくて、今日は文明の発達のお陰で恩恵を受けた話をしたかったのです。私が大学生だった頃、そう、明治から大正になる頃の話ですが、私は友人とバンドを組んでビートルズや赤い鳥やサイモン&ガーファンクルなどを歌っていました。そして誰でもそうですが、少し練習してそこそこ形になると自分の音を録音して聞きたくなる。カセットテープというものが出回り始めたあの頃は、それでもいい音はオープンリール(と言っても通じないかな)のテープに録るのがカッコよく、AKAIのデッキを購入して一生懸命吹き込んだものです。
 そうやって悦に入っていたのですが、これが段々高じてくると第二段階として「多重録音」なるものがしたくなるんです。わかりますかね。たとえばある曲のギターのパートをまず録音する。そしてそれを再生させながら、これにベースの音を重ねる。さらにボーカルを録音して、手拍子やバックコーラスでもつければ、もうバンドの演奏と同じになるじゃないですか。

 と、口で言うのは簡単なんですが、素人のレベルでこれを実際にどうやるか。たとえばこういう方法があります。テープレコーダーを2台用意して、まず最初にギターを録音し、その音を再生しながらベースを弾いてもう一台のテープレコーダーに録音する。こうするとギターとベースが録音されたテープが出来上がります。そしてそれを再生しながら歌を歌い、再び録音すれば3つの音が重なる。あとは重ねたい数だけ録音して、と理屈上はこうなるのですが、現実にはこの方法はほとんど使い物になりません。なぜなら、録音を重ねるたびに音は激しく劣化し、聞けたものではないからです。

 それなら重ねたい数だけのテープレコーダーを用意してそれぞれに各パートを録音し、それをいっぺんに再生すれば音の劣化はないんじゃないのなんて思ったりするんですが、手は2本しかないのにどうやっていっぺんに再生するの(怒)?というようなわけで、多重録音というのはかなりの高等技術なんですね。 
 もちろんプロの世界には、それ専用の機械があります。「ミキサー」という呼び方で多分いいのだと思いますが、よくスタジオの写真などで見かけるメーターやコントロールレバーがたくさん並んだ大きな机のようなヤツ、あれですよ、あれ。あるトラックの音を再生しつつ、同時に別のトラックに別の音を録音し、しかもそれを同時に再生できる。いってみればシンクロナイズされたテープレコーダーの集合体のようなもので、しかも重ねたい音だけのトラック数となればかなりのものですから、そりゃ相当高価なもののはず。

 そんな機械を素人の私が買えるはずもなく、学生時代には結局友人の鈴木君と二人で2トラックくらいの録音で満足していたのです。しかし最近、ギターの練習のためにそういえばと思いだしそんな機材が欲しくなって石橋楽器に行ったら、うわ。すげえ。あるじゃああーりませんか、ミキサーが。しかも3万円くらいで。即金で買ってしまいましたがなあ。名前も「ポケットスタジオファイブ」、TEAC社の製品です。

 これがすんごい優れものなんですよー。というわけで、冒頭のクイズの正解は「ミキサー」でした。最近は、練習したい曲の伴奏をまず録音し、それを聞きながら次のトラックにメロディやアドリブなどを録音して楽しんでおります。こんな小さな機械ですが、ほんとによくできてる。自分の伴奏で自分がメロディを弾くというのはなかなか不思議な感覚ですが、やればやるほどおもしろい。ま、自分の未熟さを痛感するばかりではありますが。そんなわけで今月の一押しは「ポケットスタジオファイブ」でした。でも正直に言うとそれをやったのはまだ2,3回だけ。だっていまは確定申告の嵐でひまがないのよ。早く春にならんですかね。ほんとに。

 


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