須田邦裕の「今月の一押し!!」
2001.12.12  今月の一押しは「山下洋輔ビッグバンド」だあ!
 光陰矢のごとし、気がつけば師走となっておりました。いやー、先月は結構多忙だったんですねえ、公私ともに。それもそのはず、最近にしては珍しくコンサートを二つも鑑賞してしまいました。今回はそのお話を少し。

 一つはHawaiian Healing Session (ハワイアン・ヒーリング・セッション)、出演はKeola Beamer(ケオラ・ビーマー)とTeresa Bright(テレサ・ブライト)を中心とするハワイアンのミュージシャン達です。正直なところハワイアンなんて、私関係ないと思っていました。フラダンス?アロハオエ?まあBGMにはいいけど、まともに向き合って鑑賞するのはつらそーって感じですかねえ。でもケオラのコンサートは、ちょっとしたご縁があって今回で2回目。なかなかのものですよ。基本的にギター1本の地味目のステージですが、ほんわかしたムードとは無縁な、ハワイの伝統的な悲しい歌を中心とする緊張感のあるステージです。

 特筆すべきはスラックキー奏法というギターの演奏です。私も正確なことは知りませんが、通常のチューニングからいくつかの弦をゆるめて演奏する奏法のようで、恐らく開放弦の状態で和音になっているのではないでしょうか、ケオラがギターのボディをそっと叩くとそれだけでギターが鳴り出し、まるで奏者とギターが会話をしているような不思議なムードに包まれます。ある時は悲しく、ある時は激しく、ケオラの高く澄んだ声と相まって、ハワイ先住民の祈り、悲しみ、喜びなどの感情が切々と伝わってくるようです。

 今回のコンサートでは、ケオラのステージの前にテレサのステージも楽しめました。ご本人がステージに登場したとき、ほんとにここだけの話ですが、「わ、はりぼておばけ」と叫びそうになってしまったほど、ご本人は何と言うかふくよかでいらっしゃるんですねえ。しかし演奏が始まってすぐ、そんなことを心で口走ってしまった自分の不明を心から恥じました。穏やかな笑顔、本当に美しく澄んだ声、ゆったりとしたリズム、曲目もハワイアンというよりはむしろボサノヴァ、ジャズでした。ヘレン・メリルで大ヒットしたYou'd be so nice to come home toなどを涼しい顔してやってしまうんですよ。バックのピアニストとベーシストも本当に達者な方々。エレキベースは6弦のものを使ってましたねえ。かっこよかった。予想もしなかっただけに、本当に美しく、素晴らしいステージに喜び一塩で、ヒーリング・セッションという言葉の意味をすごく実感できました。終わって外に出たら、日本の若い女性たちはみんなガリガリに痩せこけて貧相に見えて仕方がない。多少ふっくらのほうがいいのと違いますかねぇ。

 さて二つ目は、出ました山下洋輔ビッグバンドです。山下氏は、音楽に著作に多彩な才能を発揮されている方でいつまでもパワーが衰えない凄い人ですが、私にとっての彼の音楽は、学生時代に学園祭でトリオ演奏をしてくれたのを聞いた記憶がある程度で、どちらかと言えば前衛的な(ひじでピアノの鍵盤をドツくの知ってますか?)、あまり好みとは言えないミュージシャンだったのですが、誤った先入観を持っていると損をするなと、これも実感してしまいました。今回のステージはその名のとおりビッグバンド構成で、サックスはアルト1、テナー2,バリトン1、金管はペット2,トロンボーン2,それにリズムセクションがパーカッション2とベース1,プラス山下氏の12人のメンバーでした。

 観客は200人程度の狭い会場でしたが、それだけにプレイヤー達の熱気がまともに伝わってくる、すごい空間でしたよ。リズムを刻みすぎて、帰りは足がつりそうになる位。今回のセッションはField of Groovesと銘打って行われ、先にニューヨークで現地のミュージシャンにより既にCDが発売されています。それと殆ど同じ曲目で、ドラムとベース以外はすべて日本人のプレイヤーによるステージだったのですが、スタジオと観客の前という違いがあるとはいえ、日本のジャズメンの力量は大変なものですね。アルバムより何倍もおもしろかった。特にテナーサックスのお二人(名前を忘れてしまいました)は、アドリブの上手さ、展開の意外さ、パワー、どれを取っても特筆すべき出来映えでした。

 アレンジもよかったのでしょう。炸裂する音、アーバンな響き、混沌からユニゾンへと発展していく渦のような音の流れ、鳥肌が立つ思いでした。変拍子が多い山下氏のオリジナル曲を一糸乱れぬ演奏でまとめ上げ、ほとんど尊敬に値する演奏だったと思います。わかりやすい音楽もいいけど、訳の分からない音の洪水に身を置いて、それがちゃんとした規則性の下に徐々に徐々にまとめられていく様子を体感するのも、たまらない刺激ですよ。食べ物だって甘いお菓子から最後は下手物食いへ、絵画だって具象から抽象へ、みんな同じプロセスをたどるのよ。だから聞いたことがない人は是非一度山下の世界へ。

 そんなわけで今月の一押しは「Field of Grooves(by 山下洋輔ビッグバンド)」でした。いよいよ新しくなってきたぞー!!

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