須田邦裕の「今月の一押し!!」
2001.07.12  今月の一押しは「ぢん・ぢん・ぢん」だあ!
 どういうわけか最近、我が地元「武蔵野・三鷹」エリアが舞台となっている小説が目に留まります。交通機関で言えばJR吉祥寺駅、三鷹駅あたりですね。まあ、自分の住んでいる町が有名になるのはうれしいことであり、読んでいても何となく力が入るものですが…。たとえばこんなフレーズはどうですか。

・花村萬月著「ぢん・ぢん・ぢん」より
「どこ?」
 運転手が聞いた。冷淡で投げ遣りな口調だ。イクオはカッとした。しかし、結局うなだれた。則江が愛想たっぷりに答えた。
「運転手さん、井の頭通り。吉祥寺のガード下を抜けて成蹊通りの交差点で左折すると、幼稚園があるの」
「そんなに覚えきれないよ。現地についてから道案内してよ。」……

・花村萬月著「ぢん・ぢん・ぢん」より
セーターを着ていると汗ばむほどだ。イクオと桂はのんびりとJR三鷹駅まで歩いた。タイミングよく中央特快が滑りこんだ。……

・東野圭吾著「秘密」より
杉田平介のマイホームは、三鷹駅からバスに乗って数分のところにあった。細い道が複雑に入り組んだ住宅地の、北東の角地に建っている。……

・久住昌之著「小説中華そば「江ぐち」」より
ボクが住んでいる街の南口駅前通りを駅からまっすぐ下ってきて最初の十字路を左に曲がったすぐのところに「江ぐち」はあります。……

 どうですか。お近くの方、思わず読んでみたくなりません?
 成蹊通りの交差点なんて、私の家のすぐ近く。「江ぐち」というラーメン屋は三鷹に住んでいる人なら知らない奴はもぐりと言われるくらい有名です。しかし、最近読んだ中では、花村萬月の「ぢん・ぢん・ぢん」は衝撃的でした。上下二巻の大作ですが、ストーリー展開もスリリングで、エロティックな記述も多く、少しも飽きさせない。特にラストシーンのすごさ、怖さは…。だめ。怖くて言えない。久し振りに全身に汗をかきながら、必死になって読んでしまいました。そして読み終わった後のものすごい疲労感。いやー、おもしろかったです。
 というわけで、私の今月の一押しは花村萬月著「ぢん・ぢん・ぢん」(祥伝社文庫)でした。

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